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第3話
どこに居たって、どんな事だって京介に勝てることなど一度としてなかった。そう、ただの一度も。本気でやっているとは思えない京介に、洋は一度も勝てなかったのだ。
そうして小中と過ぎ、気が付けば同じ高校に進学していた。
そこで、入学式に新入生代表として壇上に立ったのだって、京介だ。もう見慣れた、奴の後ろ姿。追いかけても、追いかけても追いつけない、それ。
入学式が終わればすぐに、教室へと戻った。従兄弟だというのに、京介とグループが重なったことはない。学校側が配慮しているのか、クラスすら重ならないが。
京介も俺も、グループの中心に居る。上位のアルファゆえ、と言われればその通りだが。
有名校だった高校には、同じ中学からの友人や取り巻きたちに加え、他の学校からの進学者もかなりの数がいた。
そのうちの一人だ、京介が惹かれたのは。
京介の周りは言う。運命に出会ったのだと。
中学の頃に性別検査が行われるこの国では、中二の時点で二次性と呼ばれるアルファベータオメガが確定される。もちろん、ベータであれば変質する可能性は十分あり得るが、アルファやオメガは生涯変わることはない。
彼は、オメガらしいオメガ、と言うわけではなかった。平凡、人混みに埋もれるそんなタイプ。
だが、京介は同じクラスになったそのオメガと一目で恋に落ちた。いや、運命ならば一目で惹かれあった、と言うべきか。
京介の居る教室を通り過ぎるとき、あの平凡と話し、頬を緩めるさまを見て、言いようも知れないショックを受けた。
もっと美人なら、女なら、と、自分の中で不満が積もっていく。
自分に何一つ勝ったところもないあの平凡オメガが、京介に気に入られている、その現状が許せなかった。
「邪魔だな、あの子」
取り巻きの居る中、ぽつり、と洋が言葉をこぼす。
だが、それ以上何かをする予定はなかった。ただ、気に入らない、と思っていただけで。
その知らせを聞いたのは、呟いてから随分と後の事だった。
京介の番が死んだ、と言うのは。
駅のホーム、たまたま一人になった彼を、取り巻きの一人が突き落としたらしい。
詳しいことは知らない。人伝に聞いただけだから。
まぁ、突き落とした本人もその家族も無事では済まないだろうな、とは思うが。
洋はそんなことに興味はなかった。もとより、取り巻きがどうなろうと知ったことではなかったから。
これで、完璧なアルファだった京介が、元に戻ると信じていた。もっと美人な番を見つけると、信じていた。それは洋の理想でしかないのだが。
「……なん、で?」
どうして?どうして?
日に日に、憔悴していく京介の様子に、洋は信じられないものを見るような目を向けた。
運命の番が何だというのか、と。自分が運命の番に出会ったことがないから、そう言えるだけかもしれないが。
そうして、陰から見ていても、声はかけられない。昔、父に怒鳴られたトラウマのようなものが、洋を縛っていた。
京介は、番の復讐を果たし、死にたかったのだろう。けれど、周りがそれを許さなかった。
だから、屍のように毎日毎日ただただ生きていた。アルファとして、なすべきことを成すだけの存在。
あぁ、こんなはずではなかったのに、と唇を噛んだ。
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