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第1話
「助けて欲しいんやろ。タダで助けてもらえる思てんちゃうやろな。・・・そんな話あらへんな」
ソイツは薄笑いを浮かべながら言った。
僕は焦る。
ただ助けてもらおうと思っていたわけじゃないけれど、こんな風に言われるとも思っていなかった。
「それとも何か?お前。俺がお前を好きや言うたから、お前が困ったら簡単に助けてくれる思ったんかい。お前の為やったら喜んで何でもしてくれると。・・・ふざけんな」
薄笑いは、皮肉に歪んだ笑いに変わる。
酷い言い方だ。
そんなつもりは・・・なかった、わけではない。
頼れるのがコイツしかいなかったから来たのだが、僕のことを好きだと言ってくれたから、何とか引き受けてくれるんじゃないかとは・・・思った。
「ただのつもりはあらへん。・・・なんかで埋め合わせさせてもらおう思ってる。もう、お前しか頼れる人かおらんねん」
僕はそれでも必死で頼む。
コイツしかいない。
僕を助けられのはコイツだけだ。
僕の頼みを聞きコイツは声をあげて笑った。
嫌な笑い方だ。
「へぇ、俺に。俺だけなんか・・・おもろい」
ボサボサの髪をかきあげ、ソイツは言った。
意外と整った顔に驚く。
そう、オタクとかで、実は良くみたら顔はいいけど残念なヤツ。
まさにコイツはそういうヤツだ。
「・・・ほな、まず俺にキスして貰おうか」
ソイツは教室の机に座り、腕を組んだままいった。
「へぇ?」
僕は間抜けな声を出した。
「俺はお前が好きなんや、キスは当然の要求やろ」
ソイツは平然と言った。
僕は呆然とする。
そうかもしれんけど。
でも、そんな。
「お前の気持ちなんかいらん。俺がして欲しいことだけしてくれたらええ」
ソイツは言った。
「お前にかけられたら呪いで、死にたくないんやっならな、お前はここで、まず俺に自分からキスするんや。ちゃんと舌までいれてな」
ソイツの言葉に絶句した。
どこからだ。
どこから説明したらいいのか。
まずはコイツの告白からだ。
学年に一人位はいる誰とも関わらないで、なんかキモいもんにのめり込んでるヤツ。
それがコイツだ。
「オカルトマニア」だと聞いて引いた。
見た目もボサボサのただ伸びただけのロン毛。
顔なんか髪に覆われて見えない。
背は低くないけど、ガリガリで。
皮肉な歪んだ笑いをたまに浮かべる以外は、無表情で。
誰とも話なんかしない。
休み時間にはなんかキモい題名の本とかを読み漁っていた。
キモい。
キモい。
なんか死体の写真とか、なんかの儀式の写真とか。
かなりどん引きする本を平然と。
正直、友達になりたいタイプじゃなかった。
単なるクラスメイトだった。
でも、そんなソイツに先日突然告白されたのだった。
放課後、出さないといけない課題を、慌てて放課後の教室で一人仕上げていた時、ソイツかぬうっと僕の前に立っていた。
「何か用?僕、これ急いで仕上げなあかんねん、ゴメン、後にして」
ソイツが僕に何の用なのかさっぱりわからなかったけれど、先生に許してもらうためには早くも仕上げないといけないから、とりあえずあやまる。
「・・・ 」
ソイツは急に文章を言い始めた。
「へぇ?」
僕はポカンとする。
「早よ書けや。訳してやっとるんや。さっさと終わらせてオレの話を聞けや」
ソイツは無表情に言った。
ちらりと見ただけで、この英文が訳せるらしい。
僕は全然わからんのに。
そういや、英語の本も読んでたな。
とにかく助かる。
赤点を取り、追試もだめ。
なので、課題をしてくることが求められているのだ。
卒業の為には必要なのだ。
言われるがまま、英文を訳した。
「お前な、ちゃんと課題せんからいつまでも赤点なんやぞ。そうやって、ギリギリまでせんからや。卒業するための勉強しかしてへんかったら、卒業も危うくなるで。そんなんもわからんか」
ソイツに言われた。
ごもっともだった。
でもおかげで、課題は提出できた。
そして、職員室から戻ってきた僕はソイツと教室で向き合った。
「ありがとな、助かったわ~、で、僕に話って何?」
僕は聞いた。
ソイツは、少しだまった。
「・・・お前が好きや」
それはいきなりの一言だった。
「ふぇっ?」
変な声しか出なかった。
突然の同性からの告白。
しかも、口も聞いたことないヤツからの
そんなんどない答えたらええねん。
「別に・・・だから、どうとかは・・・ない」
ソイツは口ごもった。
無表情から皮肉な微笑に変わる。
顔だけみれば冗談かとも思う。
タチの悪い悪戯かと。
ただ、かぶさった前髪の間から見える目に強い熱量があって、嘘ではないことがわかった。
本能的に後ずさる。
「言いたかっただけや」
ソイツは小さく呟いた。
一瞬伏せた目に、後ずさったことが傷つけたのかとか考えてしまった。
「あの・・・」
僕はどう言えばいいのかわからない。
「何も言わんでええ」
ソイツは皮肉な微笑を浮かべた。
「・・・妙な同情はいらん。ゲイのキモい同級生に告白されて気の毒やったな、ホンマついてへんな」
ソイツは言った。
嫌な言い方だ。
何で告白されただけやのに、こんな言われ方されなあかんねん。
「・・・言わずにはいれんかったんや」
小さい声。
ソイツが震えてたような気がした。
次の瞬間ソイツは何もなかったかのように、背を向け去っていった。
僕は何も言わせてもらえなかった。
ただ、呆然と見送っていた。
それが数週間前の話。
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