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第2話

 そして、今。  机に座るソイツの前に立ち、僕は震える指をソイツの顎にかけていた。  顔を上に向かせてキスするために。  キスなんか、したことない・・・。   しかも、舌入れろって・・・。  やっぱりあかん。   「お前が僕にすんのはアカンのか」  僕は提案する。  それなら、目を閉じて我慢してればいい。  命には換えれない、キスくらい構わないけど、男に自分からキスするのはハードルが高い。  「・・・俺はキスなんかやり方も知らん。知っとるように見えるか」  ソイツは言う。  そうだけど。   絶対童貞だろうけど。   何でそんなことをえらそうに言えるわんかな。  「えらそうで悪かったな」  睨まれる。  ソイツが僕の心を読んだ。  コイツエスパー?  「わかりやすいんや、お前が。もうちょい隠せ。お前が、オレにキスしたないのはわかってる・・・」  最後は小さい声だった。  なんか、つらそうに見えた。  変な話だけど、少し可愛くなったって言ったらあれだけど。  少なくとも、少しキスすることのハードルが下がった。  コイツが本当に僕のことを好きなのはわかったからだ。   それに僕も震えているけど、コイツも少し震えていた。  なんか、出来そう。  これには僕の命がかかっているんやし。     「目閉じて女のこと考えてしたらええねん。見てなかったらキスやったらそんな男も女も変わらへんやろ」  ソイツはさらに小さい声でうつむいて言った。  「僕かてキスはしたことないんや・・・」  僕も小さい声で言った。  ソイツは驚いような顔をして顔をあげた。  その顔はいつもの皮肉っぽさはなくて、素のソイツが剥き出しになっているようだった。  同い年の、繊細な少年の顔。  なんか、なんか・・・よくわからない。     なんかその時イケると思った。  ソイツの顎を掴んだ。  顔にかかった髪をかきあげる。  女の子には見えない。  でも、綺麗な顔だ。  真っ黒な目が熱っぽい。  イケる。  イケる。   その目をしばらく見つめて目を閉じた。  「無理してせんで・・・」  ソイツが何か言いかけた唇に唇を重ねた。    柔らかい。  良くわからないけどそこで唇を動かした。  柔らかいソイツの唇を挟んでみた。  唇の形。  ソイツの。  なんか、きた。  思わず、その唇を舐めた。   ソイツの身体かビクンと震えた。  僕の中で何かが起こった。  ぶわって、なんかが溢れだした。   貪りたい、そう思った。   唇を舌で割る。  口の中を探れば、そこにソイツの舌があった。  わかんないけど、舐めた。  ソイツが息を呑むのがわかった。  抱きしめられた。     抱きしめていた。  ソイツが舌を自分から絡めてきた。  それに応える。  何これって思う。  舌が痺れるみたいに気持ちいい。  口の中に溢れる唾液。  それを夢中で飲む。    何だよ、これ。  止まらなくなっていた。  互いの口の中を蹂躙しあう。  キスってこんなに凶暴で、気持ち良いもんだったのか。    「あかん、これとまらへん」  アイツがキスの隙間に呻いた。  「僕も・・・」  僕も、呻いた。  僕らは互いを必死で貪りあってしまった。  同性だとか、命が助かるためだとか、そんなんは全部とんでいて、ただ、ただ、キスが気持ち良かったのだ。    「肝試しや」  そう盛り上がったのが一週間前。  告白の後は、何もなく、ソイツはいつも通りで。  あれが夢だったのではとさえ僕は考え始めていた。  いつも通り、誰にも構わず本を読んで、話かけられたら皮肉な笑顔で嫌みにしゃべる。  「なんやねんアイツ」    そう言われるわりには嫌われてはいなかった。   言うことは一々ごもっともだったし、なんせ、弁はたったし、むしろ喋る内容には皮肉なユーモアがあって、思わず聞きいってしまうからだ。  「アイツはほっとけ」  それくらいで済んでいた。  僕は正直、ちょっと気になるようになってしまっていた。  告白されたんだからまぁ。  でも、可愛い女の子ならともかく、男では。  でも、見てたら結構面白いヤツで、告白とかそういうのじゃなかったら友達になれたのにな、と残念に思った。  とにかく、クラスで肝試しが持ち上がったのだ。  僕らの町には山がある。  その山の中腹に廃墟になった昔のホテルがあって、そこは心霊スポットとして有名だった。  そこの怪談話も地元じゃ有名だった。  大学生のグループが、肝試しに行ったことからその話は始まる。  そして、医務室でレントゲン写真を見付けて持ち帰る。  それから「写真を返せ」という怪電話やらがあって、怪現象で毎日1人づつ死んでいく。  そして、最後の1人は写真を返して助かるという話だった。  自習の課題を助け合ってさっさと終わらせ、しゃべっていた僕達はその話で盛り上がった。   話をしたヤツの話し方もうまかったからかもしれない。  肝試しをやってみようという話になった。  男子校ならではのノリだったのか。  でも、ビビり認定を恐れない、勇気あるビビり達は逃げ、クラブ塾などもあり、結局7人ほどの参加になった。  僕も行くことにした。  僕はこういうの信じていないからだ。   「・・・やめとけ。あんまふざけ半分でそういうことはせん方がええ」  珍しく、アイツが盛り上がる僕達に言った。  「特にそういう具体的な話が出来上がっている場所はな」  アイツは言った。  そうだ。  コイツはオカルトが大好きな変人だった。  皆、ちょっとびびった。   でも僕達は男子だ。  そんなモノでひくわけにはいかない。   ソイツの助言は無視された。    聞いておくべきだったのに。  大したことはなかった。  そう、なかったんだ。  夜は怖いから休日の昼間に行くことにしたし、7人だったし、喋りながら行ったし。  わいわい騒ぎながら、僕達は山を登っていった。  本当はいけないけれど、塀を乗り越えてそのホテルだった建物の中に入っていった。  建物は結構大きくて。  水たまりがあったし、湿気けてカビ臭くて、草が生えていたり、動物の臭いなんかして、野生化した建物ってこうなるんだ、と思った。  床も穴だらけだ。  「医務室探そうぜ」  誰かが言った。  あの嘘臭い話を検証するのは面白いと思った。  僕は怪談なんか信じていない。  馬鹿馬鹿しいと思っている。  霊なんかおるかいな。  大体なんで、レントゲン写真を持ち出された位で幽霊が人を殺さなあかんのや。    ふと、オカルトオタクのアイツのことを考えた。  オカルトオタクってのは僕らが決めつけただけで、アイツが本当は何を考えているのかは分からない。  なんか、怪しい本・・・ぼろぼろのとか、殺人事件の写真とかあるようなのとか。  英語の変な図が書いてあるやつとか。  それを読んでいるのを見ただけだ。  アイツはこういうモノを本当はどう思っているんだろう。  話しかけられるのが嫌じゃないなら・・・話しかけてみようか。    なんで、告白された僕の方が気使ってんねん。  僕はため息をついた。  でも、これをきっかけで話してみたいな、と思った。   付き合うとかそんなんは有り得ない。     でも、アイツが気になるのは事実だった。  誰にも媚びない、マイペースさは・・・八方美人になってしまう僕にはうらやましかった。    友達にはなられへんかな。  そう思った。  多分、男子校やから、周りに女の子いないいないがらちょっとアイツおかしくなってるだけや。    だから・・・。  友達になりたくなった。  気になってしまうと、かなりおもしろいヤツだった。  僕はそんなことを考えながら皆について地下への階段を下りていった。  

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