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第1話 鳥籠

 「触っていい?」  そう言われて、その「触る」意味が分かって・・・怖かった。  幼なじみはダメだと言えばそんなことはしない。  それは分かっていた。  でも。  「お願い」  耳元で囁かれた。  身体には触れられてないのに、その視線と耳にかかる熱い息に思わず震えた。  幼なじみのいつもは笑みをたたえた明るい茶色の瞳は、今は抑えた凶暴な熱を孕んでいた。  それを必死で抑えてる。  堪えている。  自分のために。  彼はそれをわかった。  いつだって幼なじみは自分のことは我慢する。  いつだって、彼を優先してくれてる。  そんなの知ってる。  「触りたいんだ」  泣きそうな声で言われる。  触るだけでは済まないのはわかっている。  それが怖い。  怖い  性的なものを遠ざけてきた。  汚れるみたいで嫌だったのだ。  みんな汚いと思っていた。  幼なじみだけは綺麗だと思っていたのに。  幼なじみはベッドの上でのしかかるようにしているのに、彼の身体には少しも触れていない。  触れないように配慮してる。  後、数センチで触れる距離で、熱く囁くだけだ。  熱い身体がそこにある。  まだ触れてないのに、それがわかる。  目を反らすことも許されない。  酷いと思う。  こんなの脅迫だ。  彼は幼なじみが好きなのだ。  だから、こんなにせがまれたなら、泣きそうに頼まれたならなんでもしてあげたくなる。     でもこれはあんまりだ。    「触りたい・・・」   その声は泣き声のようだった。  酷い。  本気だ。  酷い。  彼の気持ちをわかっててこんなことをする。  彼は泣く。  いつもなら泣けば何でも許してくれた。  でも今日はだめだった。  「嫌なら・・・しない。なら嫌って言って?」   幼なじみは絶対に決断させようとする。  彼が自分で幼なじみを拒否したのではない、と言い逃れ出来ないようにする。  「言って?」  逃がしてくれない。  嫌だと言えば、もうお前を失うんだろ?  もう今までみたくはいてくれないんだろ?    いいって言ったら、するんだろ?    そんな二択ない。  あんまりだ。  嫌だ。  嫌だ。  嫌だ。  「決めて」  幼なじみは苦しげに言った。  オレのが苦しい。   お前が好きなのに。  酷い。  嫌だ。  酷い。  「・・・・いい」  それでも、彼は泣きながら言った。  失いたくなかった。  物心ついた時にはもう側にいた、大切な大切な幼なじみを。   幼なじみは微笑んだ。  本当に嬉しそうな顔で、今までみたことがなかった顔で。  そんな顔したことなかったじゃないか。  「触るね。泣かすかも」  残酷な宣言をされた。  見開いたままの彼の目に、幼なじみの明るい茶色の目が近づいてくるのが見える。  「キスする時は目を閉じるんだけどね・・・いいよ、全部見てて。僕がお前を全部食べるまで。全部僕のだ」  囁かれ、幼なじみの男らしい厚めの唇が、自分の薄い唇に重なるのを怯えながら彼は感じた。  食べる。  そう、食べられた。    優しく啄むように何度も重なられ、わけがわからないまま、ぼーっとなった。  舌が入ってきた。  その感触におびえた。  怯えた瞬間身体に体重をのせて覆われた。  熱い肌が互いのTシャツ越しにわかる。  そして太股に当たる堅いモノ。  ジーンズ越しのそれに怯えた。  のしかかられ、抱きしめられたのは、逃がさないということなのだ。    熱い舌はもう彼の舌を引きずり出して貪っている。  口の中を熱い舌が好きなように貪る。  舌を吸われ、咬まれた。  注ぎ込まれる唾液が口の端から零れ、飲まされた。    「ううっ」  彼は怯えて泣く。  許してもらえないのを分かっていて泣く。

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