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第6話

 それでも。  真夜中に幼なじみの家を訪れていた。  明日から三連休だ。  多分、まだ起きている。  母親は帰ってこない。  最近はずっとだ。  出張だっけ?  ても、幼なじみと二人でいたから気にしてなかった。  幼なじみがいれぱ良かった。  他の誰もいらなかった。  二人でいれば無敵なのだと勝手に思っていた。  始終出入りしている幼なじみへの家の距離がたまらなく遠く思えた。  こんなに足が重かったこともない。  でも行かないと。  行かないと駄目だ。  彼は震えながら幼なじみの家のドアの鍵を開ける。  この鍵も返さないといけない。  勝手知ったる玄関の灯りをつけ、階段への電気もつける。  そして、二階の幼なじみの部屋を目指す。  幼なじみはいつもみたいにベッドに寝転びながら本をよんでいるのだろうか。  よく泊まった。  幼なじみは彼をベッドに寝かし、自分は床に布団を引いて寝た。  「お前のベッドだからいいよ」  と言ってもそうした。  幼なじみの匂いがするベッドで寝るのは心地良かった。  誰にも触れられたくなかったのに、まるで全身包まれているみたいなその感覚は、思いの外悪くなかった。  幼なじみが側にいてくれてるから。  幼なじみは他の誰かを部屋に入れて、その人も自分のベッドに眠らせるのだろうか。  そして、彼は考えもしなかったことに気付く。  その人は女の子で、二人はセックスをして一緒に眠るのかもしれない。  ゾッとした。  嫌悪感とともに胸が痛んだ。  あの匂いはオレしか知らないと思っていたのに。  あの匂いに包まれて眠るのはオレだけだと思っていたのに。  それとも、もういたのかもしれない。  行動の全てを把握してるわけではない。  幼なじみは部活もしてる。  部活が終わるまで図書館で待っているけど、部活中や、試合や合宿、クラブの仲間と出かける時までのことは知らない。    誰かもういるのかも知れない。  それが理由かもしれない。    ドアを開けた。  幼なじみはベッドに腰掛けていた。  彼が来るのを待っていたかのように。  明るい茶色の目が不思議な光を讃えて、入ってくる彼を見つめる。  嬉しそう、に見える。    でも、まるで、獲物を捕らえた猫の目のようにも見える。  知らない目。  幼なじみが自分をいらないと知らなかったみたいに幼なじみについて知らないことはいくつあるのだろう。  「座って」  幼なじみはベッドのとなりを示した。  今までそんなに近くに座ったことはなかった。  近い距離感が苦手な彼のために幼なじみはいつだって配慮してくれていたのだ。  でも、今日は座る。  言われるがまま。  「来てくれた」  幼なじみはすぐ隣りの彼を見下ろす。    何故そんなにも、飢えたような顔をするのか。  何故そんなにも、嬉しそうなのか。  「目、腫れてる」  言われて、恥ずかしさに顔が赤くなる。  酷い顔だろう。  泣き続けていたのだから。  俯いた。    

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