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第二章・8
念のため、その場に10分程度とどまった後、二人は車へ戻った。
征生が運転をしている間中、楓は小さくなっていた。
(怒ってるかな。僕が、あんな無茶やったから)
はぁ、と小さく息を吐いた。
(ヤクザの先生、って差別されてるけど、僕自身が虎の威を借る狐になっちゃってるのかもしれない)
バックにヤクザがいると判れば、誰も楓に強く出ることはない。
現に、しつこく交際を迫っていた先輩が、ぱったりと誘わなくなっていた。
(どこかに、難波さんが近くに居るから大丈夫、って甘えがあったんだ。きっと)
でも……。
(どうして難波さんは、自分の身分を明かさなかったんだろう)
本城組の組員と解れば、あんな若いチンピラなら恐れ入って逃げ出しただろうに。
「先生、着きました」
「あ。ご、ごめんなさい!」
物思いに耽っていた楓は、ようやく現実に引き戻された。
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