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第三章・2

(これは、いけないことなんだ)  そう自分を叱りつつも、楓とのキスは心地よかった。  彼の舌がそろりと咥内に忍んできた時、征生の理性は溶けて消えた。 「先生……ッ」  貪るように、その舌を舐めた。絡めて擦り扱き、甘い唾液をすすった。 「ん、っあ。ふ、ぅん、んッ」  密やかな楓の息遣いが、嫌でも征生の性欲を刺激する。  いつも、見ていた。  眼で、追っていた。  そして、身につまされながら聞いていた。 『先生、はぁ、はぁ、気持ち、い? なぁ、俺、巧い?』 「ん、ぅんんッ! いいよ、すっごく気持ち悦いよ。大翔くんっ」  粘っこいローションの水音、肌を叩く乾いた音、そして、あられもない楓の悦がり声。 (平常心で聞いていたはずだった。だが……っ)  いつしか、それらが自分を蝕んだ。  先生、いや、岸さん。  いいや、楓さん。  私は、あなたのことが。  あなたのことを。

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