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第四章 初めてのデート

 朝、心地よいまどろみの中に征生はいた。  隣には、愛する人がこちらを向いて微笑んでいる。  ふっ、と息を吐いて笑った。 「何、笑ってるんですか」 「いや、こういうのもいいな、と思って」  これまで、特定の愛人は囲わずに生きて来た征生だ。  性欲は、いつも風俗で処理してきた。 (それが、まさか堅気の人間と一夜を過ごすとは)  しかも、朝帰り。  征生を知る組員は、驚くことだろう。 「ね、征生さん。今日は休暇だって言ってましたよね」 「そうだが?」 「だったら、買い物に付き合ってもらえませんか?」  征生は、ぽかんと口を開けた。  朝帰りどころか、昼帰りになろうとは。  征生はやはり、ふっと笑って答えた。 「いいよ」 「嬉しい」  擦り付けて来る楓の髪が、ひどく柔らかくて気持ちがいい。  キスを交わし、征生はもう一度幸せを噛みしめた。

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