37 / 64
第五章・5
「もしかして、仲よくしてもらったのはあの時だけなんじゃないか、って。僕……」
「そんなわけ、ないだろう」
征生が、頬を寄せて来た。
触れ合いそうになった唇の間に、楓はとっさに手のひらを差し入れて拒んだ。
「僕と大翔くんとのことは? 外で聞いてて、何とも思わないんですか?」
我知らず、ぽろりと涙をこぼしていた。
その頬の涙を拭い、征生はただ言った。
「いつ、どこで、誰と寝ようが構わない。最後に、この俺の隣にいてくれれば、それでいい」
鋼のように鍛えられた、その精神。
「馬鹿……」
そして、そんな所も好きになっちゃたんだろうな、と楓は降参した。
「楓」
今一度、征生は唇を近づけて来た。
今度は、楓も拒まなかった。
ともだちにシェアしよう!