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第80話
あの子は私の家で家政夫をしながら、夜間高校に通い始めた。
私の仕事も手伝ってくれている。
元々賢い子だ、すぐにもっと役にたってくれそうだ。
来年は一緒に南の島のシャーマンに会いにいくことになっている。
彼の妹であり、私の娘であるあの人子もだ。
彼らは強力な力を持つシャーマンだ。
娘はその力を自覚していないため、学校で孤立気味だが、それでも友達が少しは出来たらしい。
「僕は友達なんか一人もいなかったよ、良かったね」
彼の喜び様が痛々しい。
彼は妹を凌ぐシャーマンだ。
何より【神殺し】をやってのけた伝説レベルの英雄だ。
神の精をその身体に受けたことからも、彼の力はさらに強くなっているのではないかと思えるのだが、全ては推測でしかない。
彼は妹のように無邪気にその能力を使わない。
私は心配している。
花嫁から英雄となることが、彼が生き延びる方法だったが、英雄とは安らかな人生を生きられない者でもあるからだ。
彼の能力はどうなってしまうのだろう。
そう、アイツは最近当たり前のように我が家に夕食を食べにくるようになった。
あの子への病的な執着はあまり見せなくなったが、どんなもんだか。
週に一度はあの子とデートすることに成功しているし 、アイツに抱えられ、すごく消耗してあの子が帰ってくるところから見れば、まあ、うまく行っているんだろう。
彼も時々、夕食を食べにくる。
アイツと顔を合わせるのはどうかと心配したが、アイツに嫌みを言うのが楽しいらしい。
「身体だけは惜しいんですけどね、相性良かったから」
それを食事の席でサラッと言って、私に食事を詰まらせ、アイツが必死であの子にごまかし、あの子と娘だけは意味がわかっていないというようなことを、楽しんでいる。
彼は優秀だ。
来年卒業したら留学が決まっている。
彼が卒業すれば、彼は私の学生ではなくなる。
それを私は待っている。
そうすれば彼にアプローチできる。
堂々と
頑張りたい。
ちなみにアイツは大学は卒業した。
今はテレビや雑誌で不思議な現象について語ったり書いたりしていて、あいかわらず大人気だ。
来年の海外の調査にはコイツのコネでテレビが入るので費用が助かる。
コイツはあの子と南の島に行きたいだけだろう。
町は再興しなかった。
今は誰も住む者もいない。
あそこで何が行われて来たのか、もう誰も口にしない。
もし、アイツが解放した神を、彼が殺さなかったなら、どうなっていたのかも、誰にもわからない。
私達が介入しなかったならば、あの町はずっと花嫁達を殺しながら、幸せな町であり続けたのだろうか。
穏やかで、優しさにあふれた小さな町。
互いが互いをいたわりあう。
幸せな町。
それは誰かを殺すことで成り立っていた。
小さな箱庭。
閉ざされた幸せ。
人はそんな幸せを望むのだろうか。
一人の犠牲でみんなが幸せになることを。
私は残念ながらこう記述する。
人はそんな幸せを望むのだ、と。
でも、そんなものをぶち壊すのもまた、人なのだと。
これで、世間には発表出来ない物語を終わろう。
END
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