79 / 80

第79話

  「良く知っているのは身体だけだ、確かにな」  あの人が言った。  あの人が僕の身体を引き寄せたがっているのは分かった。  でも、耐えているのも分かった。  「姉を助けに屋敷に入って、姉に組み敷かれて喘いでいるお前を見た時から、俺はおかしくなった。ずっとずっとずっと、俺はお前が欲しかった」  「な?」  僕の顔が赤くなる。  姉様と僕のアレをこの人は見たのか。  「確かにお前を抱くことばかり考えている。それがお前を怖がらせているのも分かる。でも、もし、お前が嫌だと言うならお前に俺は触れない」  この人が本気なのは分かった。  「お前のことを何も知らなくても、俺はお前を愛しているし、お前を抱けなくてもお前を愛している」  あの人は傘を捨て、膝をつき、懇願した。  こんなに捨て身で、必死に乞われ、僕は動揺する。  なんで、こんなにしてまで僕を?  「だから、俺をお前から切り捨てないでくれ。俺をお前の人生に加えてくれ」  僕は真っ赤になっていた。  これじゃプロポーズじゃないか。  あの人は雨の中、膝をつき、僕の手をとり口付けた。   「僕を支配しないで」  僕は囁く。  「支配されているのは俺の方だ」  あの人が答えた。  「俺はお前のものだ」  あの人は僕を見上げて微笑んだ。  その笑顔は心からのもので。  僕は目がそらせない。  姉様に似た、綺麗な顔。  僕はこの人を拒否出来ないのかもしれない。  「とにかく、中に入って」   僕はまたしてもこの人を許してしまったのだ。  夜があけて夢が終わった。  僕達の現実は続いていくのだ。

ともだちにシェアしよう!