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第79話
「良く知っているのは身体だけだ、確かにな」
あの人が言った。
あの人が僕の身体を引き寄せたがっているのは分かった。
でも、耐えているのも分かった。
「姉を助けに屋敷に入って、姉に組み敷かれて喘いでいるお前を見た時から、俺はおかしくなった。ずっとずっとずっと、俺はお前が欲しかった」
「な?」
僕の顔が赤くなる。
姉様と僕のアレをこの人は見たのか。
「確かにお前を抱くことばかり考えている。それがお前を怖がらせているのも分かる。でも、もし、お前が嫌だと言うならお前に俺は触れない」
この人が本気なのは分かった。
「お前のことを何も知らなくても、俺はお前を愛しているし、お前を抱けなくてもお前を愛している」
あの人は傘を捨て、膝をつき、懇願した。
こんなに捨て身で、必死に乞われ、僕は動揺する。
なんで、こんなにしてまで僕を?
「だから、俺をお前から切り捨てないでくれ。俺をお前の人生に加えてくれ」
僕は真っ赤になっていた。
これじゃプロポーズじゃないか。
あの人は雨の中、膝をつき、僕の手をとり口付けた。
「僕を支配しないで」
僕は囁く。
「支配されているのは俺の方だ」
あの人が答えた。
「俺はお前のものだ」
あの人は僕を見上げて微笑んだ。
その笑顔は心からのもので。
僕は目がそらせない。
姉様に似た、綺麗な顔。
僕はこの人を拒否出来ないのかもしれない。
「とにかく、中に入って」
僕はまたしてもこの人を許してしまったのだ。
夜があけて夢が終わった。
僕達の現実は続いていくのだ。
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