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出会い1
後ろから抱き締められて困惑した。
「離して・・・」
震える声で彼は言った。
「嫌なら、振り切ればいい」
意地悪な声が囁く。
振り切れるハズがない。
身体の力が抜けて、動けないのだ。
この人に触られたら、身体の芯が無くなったみたいになってしまう・・・。
彼は震えるだけだった。
振り切ろうとすることさえ出来ない彼の様子を了承ととったのか、その人はゆっくりと彼のシャツのボタンを外していく。
シャツは肩からぬかれ、下に着ていたTシャツもまくり上げられた。
露わになった首筋に、唇を落とされながら、胸を撫で回された。
長い指。
優しいピアノを弾くその指が今は彼の胸を優しく撫でる。
何をされているのかはわかっていた。
ただ、あまりにも緊張しすぎて、何も感じなかった。
ひたすら身体をこわばらせるだけだ。
くすりとその人は笑った。
「・・・ああ、そうか、何にも知らないんだね」
その声に真っ赤になる。
「じゃあ、ハグからしよう」
身体を回され、向かいあうように抱き締められた。
「僕に身体を預けて・・・力を抜いて・・・」
その人は背中を優しくなでながら言った。
Tシャツも脱がされ、裸の背中を優しくなでられる。
背の高いあの人の胸に顔を埋めるようにされる。
しばらくそうされると少し安心してきた。
「怖くないでしょ」
その人は囁いた。
「・・・怖い」
彼は首を振る。
こんなに人と密着したことはなかった。
母親も「触らせない子」だったと悲しそうに言っていた位だ。
少なくとも、物心ついた頃からは人には必要がない限り触れさせていない。
「・・・こんなに綺麗なのに、こんなに可愛いのに触られるのが嫌いだなんて、ね」
あの人は彼の顔に被さった髪をなで上げる。
ボサボサの髪の下には綺麗な顔があった。
それを知る者は少ない。
多くの人には彼は極度に無口な変人でしかない。
「でも、僕に触られるのは嫌じゃないでしょう」
あの人は目を覗き込んでいう。
返事に困るのは・・・多分そうだから。
怖いのは、親密なだけの触れ合いさえしたことのない身体には、いきなり性的な接触を行うことは怖すぎるから。
「本当はここでやめてあげるべきなんだけどね。ゆっくり進んであげるべきなんだどね・・・ごめん。止めてあげれない」
あの人は言った。
「でも気持ちよくさせてあげたいから、まずリラックスして欲しいな」
あの人はため息をついた。
そんなことを言われても。
隣にいるだけでも緊張するのに。
こんなこんな肌に触れられるなんて。
「・・・ん、困ったなぁ、こんなにガチガチじゃなぁ。・・・挿れるどころじゃないなぁ」
まあ、今日は口でしてもらうとしても、とあの人はいうが、何を口でさせる気なのかも、彼にはわからなかった。
年齢こそ20才だが、彼はほとんど他人とは口さえ利いたことなく、社会とは断絶して生きていたのだから。
あの人は、耳元で囁くように歌い始めた。
低い声。
音が広がる。
彼の顔が華やぐ。
音楽は彼が言葉よりも理解出来る言語だ。
その歌は知っている。
一度聞いた曲は忘れない。
彼も、男に合わせ歌い始めた。
彼の歌。
鳴り響く歌。
その声には性別を超えた魅力があった。
男性のように深く響き、女性のように透明に響いた。
彼は今の不安を彼は歌う。
でもそこには少しだけ、少しだけ、欲望のようなものがある。
男は自分は歌うのをやめてうっとりと耳を傾ける。
ゆっくりと裸の背を撫でながら。
歌に合わせて、指はゆっくりと欲望を引き出していく。
彼の知らなかった、彼の欲望を。
歌うことに夢中になり、すっかりリラックスした彼の身体に指は優しく触れていく。
歌が終わった時、彼は自分の身体が指に溶かされていることに気付き赤面した。
「リラックスすれば、気持ちいいでしょう」
あの人は言った。
撫でられるのは、気持ち良かった。
一度受け入れたなら、否定できない。
「じゃあ、次はキス」
あの人は言った。
したことはないが、キスは何かは知っている。
唇を撫でられたら、何故か身体が震えた。
「ふうん。リラックスさえすれば感度いいね、可愛い」
あの人は目を細めた。
「君は素敵だ。きっともっと歌えるようになる。今よりもっと。だから、僕を受け入れて」
あの人は言った。
もっとなんて歌えなくていい。
彼は思った。
ただ歌えればいいのに。
それ以上はいらないのに。
でもそれも、そう思っているだけかもしれない。
男の唇が重ねられ、唇を挟まれ、離され、また重ねられられるのが、気持ち良かったから。
キスされたいなんて思ったことなかった。
でも気持ちいい。
こんなの知らなかった。
なんだか頭がぼんやりして、身体が柔らかくなってる。
舌を入れられた。
驚いて身体が震えたけれど、もう、身体は強張ることはなくて、舌を吸われ、絡められ、そんなことが気持ちいいことを教えられる。
「ちゃんと息して」
あの人がキスの合間に息することも教えてくれた。
溢れる唾液に困る。
こぼれる唾液を舐めとられた。
「飲んで」
あの人に言われた。
真っ赤になる。
「これくらいで驚いたらダメだよ。もっと違うもの、飲んでもらうんだから」
しれっと言われる。
意味は分からなくても、何かいやらしいことなのは分かって彼は真っ赤になる。
「ゆっくり教えてあげれるほど僕が紳士だったら良かったのに。ごめんね。でも、まず一回気持ち良くさせてあげるから」
抱き締められていたピアノの前から、床に押し倒された。
防音のためのカーペットがあるから痛くはない。
そして、簡単にズボンと下着も脱がされてしまった。
男は微笑んだ。
彼のものが立ち上がっていたからだ。
「キス、気持ち良かったんだ」
彼は立ち上がったものをみて途方にくれる。
ほとんど自分ですることもないのに、人に触れられてこんなことになって、どうすればいいのか分からないのだ。
「・・・離して」
早くトイレに行ってで自分でなんとかしなきゃ、と彼は思った。
「・・・ちゃんと気持ち良いんだから離さない」
あの人の指がそこに伸びた。
擦りあげられる。
「やめ・・て」
自分の拙い動きとは比べものにならない淫らさに彼は怯えた。
濡れた音。
我慢できずに先から零れる液体が広げられ、その人の手のせいでたてる音。
音に敏感な彼にはそれが耐えられないほど淫らに、聞こえてならない。
「気持ち良いでしょう」
そう囁く声が一番淫らでいやらしい。
慣れない身体は、その手なれた指にあっという間に射精まで導かれた。
「あっ・・・」
怯えたように身体を震わせ、射精した。
恥ずかしかった。
そんなところを人に触られ、こんな風にイカされるなんて。
手で顔を覆い隠すことも許されず、両手を片手でまとめあげられ、イく顔をその人にじっと見られるのは耐えられない位恥ずかしかった。
腹の上に出した、吐き出された白濁を舐めとられた時は恥ずかしさにとうとう、泣いた。
「気持ち良かったでしょう。・・・泣いても許してあげないよ。今度は僕が気持ちよくなる番」
男はなだめるように彼を抱き起こし、背中をなでながら囁いた。
男は彼の人差し指を、咥えた。
口の中で指を舐めあげ、吸う。
それは気持ちの良い感触だった。
「僕の指でやってみて」
男に言われて、差し込まれた指を男に教えられたように舐め、吸う。
「上手」
男は笑った。
男の微笑に彼は鼓動が早くなる。
男が笑うのが好きだ。
何故なのかはわからないけれど。
ボタン一つ乱していなかった男が、ズボンのベルトを外し、チャックを下ろした。
そして、それを取り出した。
彼は自分とは全然違う質量のそれに呆気にとられた。
他人の裸自体ほとんど見たことがなかったのだ。
学校もまともに行っていない。
家族ももういない。
職場以外の人と会うこともない。
そんな生活をずっとしてきたから。
しかも、男のそれはガチガチに勃ちあがっていて・・・。
「咥えてくれる?」
男は優しい声でとんでもないことを言った。
彼はめまいがした。
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