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再生2

 17であの男に抱かれた。  もちろん合意じゃなかった。  そこそこいい家柄の甘やかされた末っ子だった。  母親の見栄で始めたピアノだった。  初めてすぐに才能があるとおだてられ、実際、15で大きな国際コンクールに出るまでになっていた。  でも、ファイナリストには成れても、入賞者にはなれなかった。    「とても美しい。美しいのだけど」  「まだ若いからから、深みがない」  「もっと人間的な厚みが」  そう言われ続けて嫌になった。    僕はそんな音楽はしたくない。   美しい物を作る為だけに音楽を作っているのに、何故、変な色を入れたがる?    理解できなかった。  だからまだ少年だった男は、少年は、コンクール向けのピアノはあっさりやめてしまった。   元々好きでやっていただけだ。  そこからは学校も行かず、ふらふらとあちこちで遊び歩いた。  ピアノを弾いたり、ドラムを叩いたり、バンドの手伝いをしたり。  毎日ピアノから離れることはなかったけれど、音楽から離れることはなかったけれど、何も考えず音で遊び、ふざけまわり、親からは見放されてしまった。  今ほど背は高くなく、まだ幼さのある中性的で危うい彼の容姿と、間違いない音楽の才能は人々を惹きつけ、彼はその業界の中でちょっとした仕事を頼まれるようになった。  といっても、高校は中退していたし、家出同然とはいえ、ガキのお遊び程度だった。  それでも、その世界をフラフラしていて・・・。  あの男に出会った。  その時には25位で、もう、有名なプロデューサーだった。  誰かのライブのピアノをピンチヒッターで引き受けてから、気に入られた。  才能を認められるのは悪い気がしない。  しかも、有名な男からだ。  調子に乗ったガキだった少年は、有頂天になった。  遊びに連れ出されるのに喜んでついていくよつになった。  そして、その夜犯された。  酒を飲まされた。  調子に乗って飲んでて。  意識を失った。  そして、気が付いたら部屋に男と少年しかいなかった。  「酔っぱらったお前を見たら、二人っきりになってたし・・・ムラムラしてしまったんだ」  とあの男は数年後言い訳した。  嘘臭い。  都合よく部屋から人がきえる訳がない。  計画されていたんだと思っている。  自由のきかない身体はもう裸にされていた。  意識を取り戻したのは痛みのせいだった。  もう、挿れられ、無理やり動かれていたから。  わけがわからないまま、痛みに悲鳴をあげた。  構わず腰を打ちつけられた。  痛みだけしか感じなかった。  怖くて、痛くて、哀願した。  でも、男は言葉もなく、犯し続けた。  一応、ローションで解してくれてはいたようで、出血しなかったことだけが幸いだった。  身体のあちこちを吸い上げられ、痕をのこされた。  「・・・初めてとはな」  散々犯した後のセリフがそれだった。  その上キスまでしようとされて、舌を噛んでやった。  噛みきらなかったのを今でも後悔してる。   あの時、殴られなればそうしてやったものを。   そうするべきだったんだろう。  口から血をながしながら、あの男は少年を殴った自分の手を呆然と見ていた。  「俺は・・・お前が・・・」  あの男が何か言いかけた。  思い切り殴り返した。  その部屋をどうやって出てきたかも覚えていない。  服を着て出たことが奇跡だと思ってる。  そこから・・・。  多分、やけくそに、なっていたのだと思う。  まだ女も知らないのに男にヤラれて。  自分が男なのを証明したかったのたと思う。  そのまま、ちょっと綺麗な女に拾われて、女の抱き方を教えてもらった。  しばらく世話にもなった。    そこで女の良さも理解した。  女が抱けることに安心してからは、まぁ、他にも楽しいことはないかと。     相手には困らなかった。  男も抱いてみた。  これはこれで楽しかった。  そして、あんなヤツにヤラれっぱなしなのがしゃくで、男にも抱かれてみた。  親切で優しい男が、優しく教えてくれた。  本気で惚れてくれたから、離れなければいけなくなったけど、良い男だったし、抱かれる良さもわかった。    そんなことをしている間も少年はピアノを店で弾いて小金を稼いだり、頼まれれば助っ人等をして やっぱり音楽しながら生きていた。   少年を見つけ出したのはあの男だった。  音楽に関わり続けていたから、見つけ出すことは可能だったのだろう。  少年は現れた男に不機嫌な顔をした。  「・・・悪かった」  男は意外にも謝った。   不遜な男にしては最大級の謝り方だったと言える。  本気のようにも見えた。  遊び半分の悪さの結果にしては。  「・・・別にもういい」  少年は言った。  本当にどうでもよくなっていた。  あんたも、もういい。  謝られる方がムカついた。  コイツ、クズだよな。  僕みたいなガキを騙して抱いた、クソ野郎。  きっかけはともかく、少年は今では楽しいセックスライフを楽しんでいた。  気持ち良いのは楽しい。  それに音楽さえあれば。     騙されたムカつきだけはあったけれど、すっかり世慣れてしまった少年は「騙されるヤツが馬鹿」と 言う考え方を受け入れた。   騙す方になればいいだけだ。  「もっと音楽で遊んでみないか」  男は本当にどうでも良さそうな少年に苦笑しながら言った。  それなりに覚悟を決めてきていたらしく、少年の様子に拍子抜けしたのだと、後から聞いた。  本当にどうでもいい話だ。   騙すようなヤツに何の覚悟があると言うのだ。  「良いスタジオで、いいミュージシャン使って、お前の音楽を形にする。場末の店でピアノ弾くよりは面白いだろ」  男の言葉は面白そうに聞こえた。    「作曲家を集めている。今、プロジェクトが進行中だ。お前も参加してみないか。お前の音楽を認めさせてみないか」  男の言葉に、「綺麗なだけ」と言われた自分の音楽のことを、おもいだす。  認めさせたい。  そう思った。  「好きなだけ音楽で遊んで、大金が得られるぞ。そして、そうだな・・・月に数回オレと寝るだけでいい」  今夜の宿をどうしようかと思っていた。  その度に誰かと寝るのなら、コイツとするのもそう変わらないかと思った。   元々甘やかされていたから、贅沢は好きだ。  お金は欲しい。  でも。  「あんた、下手くそだからヤダ」    痛かったことは忘れない。  「・・・あれはお前が初めてだったからだろ。なんなら試してみるか?」  ふうん。    その時思ってしまったのが間違いだった。   もうすっかり奔放に楽しんでいて、大抵の刺激には飽きてしまっていた。  歪みきった感覚はこの男とするのも面白いと思わせたのだ。    クソ野郎とすんのも面白いか。  で、その晩男を試した。  確かにわるくなかった。  むしろ、良かった。  初めての相手には最悪なタイプだが、慣れて普通に物足りなくなってきた少年には、乱暴さも楽しめた。  獣のように貪られるのはそれはそれで良かった。  やたらと痕をつけたがるのだけは閉口したけれど。    それで、始まってしまったのだった。

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