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同居4
男は汚れた手をシャワーで洗い流し、苦笑いを浮かべながら浴室を出てこようとした。
「まだ来ないで。オレがここから出てから、出て」
彼は言った。
男は大人しく立ち止まる。
「ごめん・・・でも、抜かないと僕だってツライんだ分かってよ。君がすぐそばにいるのに触れてない。だから、想像の中ですること位は許して」
今日は実物をおかずにしちゃったけど。
と男は苦笑いする。
彼の思いつめた目に男は気づく。
彼は震える唇を開いた。
「ねぇ、オレと別れた後・・・どうしてたの?沢山の人と付き合った?」
彼は尋ねた。
こんなこと聞くべきではないと思っているのに。
男は戸惑い、苦く笑った。
「それなりには・・・」
男は嘘はつかない。
言わないことがあるだけだ。
聞かれることには正直に答えてくれる。
答えなければいいことまで。
「そう」
彼は頷く。
それはわかっていた。
彼はもう一つ、何度となくこの五年間、考え続けていたことを口に出した。
「オレと別れてから、あの人達と寝たの。あの女の人や、あの男の人と」
彼と同時に身体を重ねていた人達。
別れた後、それを考えてしまった時、彼は死にたくなった。
つまらない身体を比べられたのか。
拙いセックスを笑われたのか。
別れてからは、あの人達に自分とのセックスについて面白おかしく話していたのか。
そこまで酷い人ではない、と思ってはいる。
でも自分と身体を重ねながら他人とも身体を重ねる人だとも思っていなかったのに、裏切られた過去がある。
だからその考えは消せなかった。
心の中で比べられてはいただろう。
どちらとも同時期にセックスしていたのだから。
それを思うと悔しさと惨めにおそわれる。
「・・・」
男は黙ってしまう。
顔が白い。
「答えて!」
彼は怒鳴った。
「あの人達とも寝てた」
男は短く答えた。
オレと別れてからもあの人達と寝てたんだ。
彼は唇を噛んだ。
「あなたは最低だ」
彼はつぶやき、泣き顔を見せる前にそこから出て言った。
自分の部屋に飛び込んだ。
ドアを閉める。
「だって君にはもう二度と会えないって思ってたからヤケクソだったんだ」
ドアの向こうまで追いかけてきた男が、困ったように言う声が聞こえる。
「部屋に入らないで!」
彼は叫ぶと布団をかぶり、荒い息のまま喘いだ。
そんな話を聞かされているのに、身体だけは高ぶっていた。
情けなくて悔しかった。
でも、もう我慢できなかった。
自分のズボンから自分のモノを取り出した。
こんなにも痛い位に立ち上がっている。
泣きながら扱いた。
男が自分の名前を呼びながらしているのを見るだけでこんなになってしまう。
「あっ・・・」
布団をの下で声を殺して喘ぐ。
気持ち良かった。
自分の指が止まらない。
「・・・そういうのじゃないんだ。君が好きなんだ。君だけなんだ・・・」
力無く男はドアの向こうで呟いている。
「いいから、オレに構わないで!」
彼は叫ぶ。
彼は泣きながら、それでも男が自分の中に入ってくることを考えながら、手で動かす。
「はぁっ・・・」
声を殺す。
男にだけは知られたくない。
こんなにも、身体は男を求めていて、思うだけでこんなにも感じてしまうなんて。
ズボンはずり下ろされ、穴にも指がのびていく。
「ヤだ・・・」
そんな自分が嫌で泣く。
でも、指は良いところをさがし、こすりたてる。
「ふぅ・・・」
大声で叫びたいのをガマンする。
男の指を思うとそれだけで射精していた。
気持ちいい
気持ちいい
でも、まだ終われない。
「どうしても断れない仕事があるって言っていただろ、その打ち合わせで今日は朝から出なきゃいけないんだ。帰って来たら・・・話そう・・・」
男は言った。
「お願いだから・・・話をしよう・・・戻ってきたら話をしてくれ・・・」
男はドアに額をつけた。
その扉の向こうで、彼は声を殺しながら、自慰に狂っていた。
怒りも悲しみも全てが欲情になっていた。
悔しくて憎かった。
惨めだった。
それでも男の指や唇、舌、男のソレを思い、その指は止まろうとしなかった。
男が去っても、男が去ったからこそ、彼は止まることなく、自分で何度もイキつづけた。
泣きながら。
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