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救済1

 「だから、何でオレに電話してくるんだ。今何時だと思ってる」  眠そうな声で友人が言った。  朝一番の新幹線を待ちながら男は友人に電話をかけていた。  「・・・また嫌われたかな。どうしよう・・・」  男は待合室なのに、人前なのに涙をポロポロ流す。  周囲の人間は、端正な顔立ちの目立つ男が電話しながら泣いている姿に少しざわつく。  男はそれどころではないので気にしない。  というより、男は人がどう思うのかなんて気にしたことはない。  どう思われているか、それが気になるのは彼だけだ。  「それは嫌われるだろう。アイツそういうの一番嫌いだからな。良かった。オレとしてはしっかりお前を嫌ってもらいたい」  電話の向こうの友人は男には冷たい。  でも電話を切らないところが人が良い。  男に対しては今では友人は色々思うところはあるらしい。  「・・・別れた後のことだ」  男は言い訳する。  「アイツと付き合いながら、寝ていた連中とだろ 。そのせいで別れたのに、よくそんな真似出来るよな・・・」  友人はもはや感心していた。  最低もここまでくれば大したものだ。  「・・・二度と会えないと思ってたから、誘われたら誰でも良かったんだ。でも・・・あの男とは一回だけだった」  男は言い訳する。  ステージが成功して、仕事もどんどん入ってきた。  自分の名前と自分の曲でも勝負出来るのがわかった。  彼を失い、もう仕事しかないと思いつめていた頃に男に再会した。  「別れたんだってな・・・抱かせろよ」  男の誘いはストレートで。  思い知らせてやろうと。  お前の言っていたことは嘘だったと、お前なんか嫌いだと。  ・・・誘いに乗った。    「何でそこで誘いに乗るの。お前バカ?で、女とはどうなんだ」  友人は呆れた。  男は黙る。  「・・・おい、ずっと続いてたのか」  友人は本当に呆れた。  「・・・一年前まで定期的に」  これは言い訳出来ない。  あの女のせいで別れたのに、あの女と離れることはなかった。  彼の為なら二度と会うこともない女だったけれど、彼と会えなくなったのなら、処理には一番気軽な女だった。  「お前最低だな、本当最低だ。スゴイよ」  友人が驚く。  いや、それともそんなものなのか  彼女がいたことすらない友人には、そんな乱れた関係はわからない。  「お前にも納得した上でアイツに嫌われてもらいたいから、特別に教えてやるよ。・・・アイツそういうの一番嫌いなんだよ。アイツの父親は、アイツの母親以外にも恋人がいたらしい。母親はそれを知って別れた後に妊娠に気付いた。そして一人てアイツを生んで育てた。だから母親はアイツに言って聞かせたわけだ、自分だけを見てくれる人を見つけなさいと」  友人の言葉に男は彼があそこまで頑なだったわけがわかる。  言い訳すら聞いてくれなかった。    言い訳しようもないけれど。  「彼だけだ。愛しているのは彼だけだ。彼以外見てない」  泣きながら電話で叫んでいるのを沢山の人が驚きながら見ているが、全く男は気にしていない。  「そんなもん、お前が言ってるだけだろ。誰が納得するんだよ・・・お前最低だろ」  友人の声は冷たい。  「・・・あの人達にもそう言われたな」  男は苦笑いした。  あの男にも、あの女にも。  「お前も最低のクズなんだよ、俺と変わらない」  あの男は言った。  「あなたは私といる方が楽なのよ。私が最低?あなたこそでしょ。最低な私に興奮するくせに」  女は言った。  「キングオブクズだな。きちんと嫌われてくれ。アイツとよりは戻せなくても良いって言ってただろうが。アイツが歌えさえすればいいって」  友人は言う。  「・・・せめて嫌われたくない」  男は言った。  もう手に入れられなくてもいい。  彼が歌えるなら。  でも、でも。  もし。  許されるなら・・・。  そうは思ってしまうのだ。  「・・・嫌われてやってくれ。アイツのために」  優しい声で友人は言った。  電話は切れた。    いい奴だな。    男は思う。  だからこそ嫉妬で焼き殺したくなるのだ。  彼は知らない。  別れてからも、彼が男を救ってくれたことも。  彼は知らない。  この五年、男がどれほど彼に会いたかったのかも。  

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