47 / 75

救済3

 玄関から飛び込むと、彼の部屋の前に行く。  そこからは、彼の声がしていた。  その声は知っている。  彼のあの時の声だ。  やはり誰かと。  誰と。  ドアをすぐにも開けようとしたが、自分にはその資格がないことを考えて、嫉妬に身を焼きながらドアをノックした。  「・・・入る・・な!」  彼の声がした。  でも掠れきっていて、舌がまわってない。  「・・・誰かいるのか?」  男は聞いて見る。  「・・・誰も・・いな・・い」  彼は喘ぎながら言った。  誰もいないのにそんな声を上げるのか。  そんな嘘を。  男はカッとなった。  ドアを開けてしまった。  「入・・るなって・・言ったのに・・!!」  彼が悲鳴をあげた。  男は言葉を失った。  彼は確かに一人だった。  でも、ベッドの上で淫らに身体をくねらせていた。  上気した顔、トロンとした目。  だらしなく開いた口。  彼は一糸もまとわず、その指は自分の前を扱きたてていた。  男が見ているのに、その指は止まろうとしない。  片手で淫らに扱きたてながら、乳首を自分で押しつぶしていた。    あまりの淫らさに男は唾を飲んだ。  「見る・・・な、出ていけ!!」  彼は怒鳴った。  喘ぐ。  白い身体がビクンビクンと痙攣していた。  部屋に籠もった臭い。  散らばったティッシュ。  彼がもう何時間もこうしているのは間違いなかった。    「はぁっ!!」  もう苦痛でしかないような声を彼は上げる。  でも、勃ちあがってはいても、絶頂を迎える様子はなかった。  それでも彼はそこを扱き続ける。  泣きながら。  「止められないんだね」  男は察した。  「見るな!・・・出て・・行け!」  彼は泣きながら言った。  先を執拗に弄りなんとか絶頂にいこうとしている。  男は友人にその場で電話をかけた。  来られたら困る。  こんな彼を見せるわけにはいかない。  僕以外が見てはいけない。  「・・・おう、どうだった?」  友人は聞く。  「大丈夫だ。僕に任せて。明日また連絡する」  そうとだけ言って、男は電話を切った。  彼に近付く。  「来るな!」  彼は怒鳴った。  男はため息をついた。  「大丈夫、何もしないから。困ってるんでしょ・・・」    男は優しく話かけた。   彼の顔がクシャクシャに歪んだ。  かろうじて自分を保っているように見えた。  怯えきっていた。  「・・・止められない」  彼は苦しげに言った。  「出ないのに・・・もう、出ないのに・・・」  彼はそう言いながらも、その指は自分のそこを扱くことを止めなかった。   男には覚えがあった。  心のバランスが狂っているのだ。  昔、あの男に犯されてから、セックスばかりしていた時、こんな感じになった。  男の場合は自慰ではなく、複数でのセックスなどでこうなっていたのだが。  これはもう、気持ち良いものではない。    ただの飢えだ。  「大丈夫。助けてあげるから触ってもいい?」  男は彼の側に跪く。  「触る・・・な!!」  彼は怒鳴る。  こんなになっても男を拒否する。  男の胸は痛んだが、自業自得なのだと言い聞かせる。  「抱かないから安心して。助けるだけ。君は今病気なの。これは君がしたくてしてるんじゃないから」  安心させてやる。  「オレ・・はこんなの・・したく・・ない。あなたも・・・嫌いだ・・」  彼は少し安心したように目を潤ませる。  嫌いと言われてさらに傷つく。  「だから助けるね。・・・絶対に抱かないから触らせてね」  男は優しく言った。  彼は目を閉じた。  了承ととり、男は彼をそっとだきあげた。  身体はドロドロに汚れていて、肌は上気していて、ビクつく身体は男がただ触れただけで、声をあげるほどで。  唇をかみしめて、押し倒したくなるのを耐える。 これも罰だ。  でも、この罰は甘い。  「もう、前ではイケないと思うから、後ろでイカせるね」     男は囁いて、彼の後ろの穴に指を伸ばす。  「止め・・」  言いかける彼の唇を撫でて黙らせる。  「抱かないから」    安心させるように背中を撫でる手にさえ彼は乱れた。  「はぁっ、あっ」  彼は喘ぐ。  指をいれた。  散々弄っていたのだろう。  そこはすっかり柔らかくなっていた。  「自分だと後ろだけではイケないんでしょ」  男はもう良く知っているそこをゆるゆるとこすりたてた。  「あっ・・・あっ!!」  やっと来た絶頂にかれは救われるように歓喜する。  「イカせてあげる」  男は安心させるように囁いた。   「あなたなんか嫌い嫌い嫌い・・・アアッ!」  彼は叫びながらイく。  「うん、わかってる」  彼は切なくなる。  でも連続でイせるためにさらに、指をそこで動かす。   中がうねっているのがわかってツライ。  ここに入れたらどんなに気持ち良いだろう。  耐える。  代わりに抱き締める。  彼の白い首筋に顔をうずめる。  唇を落とすのは我慢して、その肌を頬に感じる。  これくらいは許して欲しい。  「あっ!!ああっ!!」  彼は男にすがりつくのが可愛かった。  服なんか着ないで裸で抱き合って、背中に爪を立てさせたかった。  「ああっ!」  彼の背中がしなう。  またイったのだ。  「あなたなんかあなたなんか・・・」  彼が泣いている。  綺麗なアーモンド形の目から涙が溢れてくる。  綺麗だ。  でも、そんなに嫌かと思うと悲しい。   「オレは・・・あなたしか知らないのに・・・ズルい!!」  壊れた彼が口走り始める。  男は歓喜した。   強く抱きしめてしまう。   この五年誰もこの身体に触れなかったのだと知って。  「あなたしか、知らないから、オレ・・・あなた のこと考えて・・・ずっと、自分でしてしまってて・・・アアッ!」  彼はまたイった。  男の胸は高なる。  彼はずっと僕のことを考えてしてた。  それがどれだけ嬉しいことか。  「どうせ、他の人と・・・比べてたくせに・・・オレなんて・・・オレなんて・・・つまんなかったんだろ・・・やぁっ!!」    彼は泣き叫んだ。  男の首にすがりつきながら。  多分何を言っているのかはわかっていない。  プライドが高い彼がこんなことを言うはずがないから。      連続で立て続けにイカせる。  ガクガクと身体がゆれて、口は開いたままだった。  涎を垂らす。  目は潤んで焦点など合っていない。  いやらしい顔だった。   この顔は僕しか知らないんた。  男は嬉しかった。  彼はとうとう意識を飛ばした。   快感を受け入れる容量が溢れてしまったのだ。  スイッチを強制的に切ってやったのだ。  意識を飛ばすためにしたのだけど、もっと彼の本音を聞きたかった。  男は残念にも思う。  本当は男をどう思っているのか、もっと聞きたかった。    ぐったりと横たわる彼の髪を撫でた。  風呂に入れてやろう。    精液で汚れた身体を綺麗にしてやろう。  心のバランスが壊れているのだ。  自分が現れたのも間違いなく関係しているだろう。  でも、彼は音楽さえ失ってさえいるのだ。  もっと前から心は蝕まれていた。  それが少しずつ表に出てきているのかもしれない。  自分がどれだけ彼を傷つけていたかを思い知らされた。  「他の人と比べてたくせに」  と言われて死ぬほどつらかった。   そんなことを思わせてしまったのかと思って。   「・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい」  こんなに傷つけてしまうとわかっていたら絶対にしなかったのに。  「あなたなんか嫌いだ」  彼の言葉が突き刺さる。  その言葉の威力を彼は分かっていない。  「ごめんね。でも、僕は君を愛してるんだ・・・」  男は力なく呟いた。  そして、彼を風呂に入れる前に、彼を見ながら自分のモノをとりだし扱き始めた。  ホント、ホント、これくらいは、許して欲しい。  男はため息をついた。

ともだちにシェアしよう!