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救済3
玄関から飛び込むと、彼の部屋の前に行く。
そこからは、彼の声がしていた。
その声は知っている。
彼のあの時の声だ。
やはり誰かと。
誰と。
ドアをすぐにも開けようとしたが、自分にはその資格がないことを考えて、嫉妬に身を焼きながらドアをノックした。
「・・・入る・・な!」
彼の声がした。
でも掠れきっていて、舌がまわってない。
「・・・誰かいるのか?」
男は聞いて見る。
「・・・誰も・・いな・・い」
彼は喘ぎながら言った。
誰もいないのにそんな声を上げるのか。
そんな嘘を。
男はカッとなった。
ドアを開けてしまった。
「入・・るなって・・言ったのに・・!!」
彼が悲鳴をあげた。
男は言葉を失った。
彼は確かに一人だった。
でも、ベッドの上で淫らに身体をくねらせていた。
上気した顔、トロンとした目。
だらしなく開いた口。
彼は一糸もまとわず、その指は自分の前を扱きたてていた。
男が見ているのに、その指は止まろうとしない。
片手で淫らに扱きたてながら、乳首を自分で押しつぶしていた。
あまりの淫らさに男は唾を飲んだ。
「見る・・・な、出ていけ!!」
彼は怒鳴った。
喘ぐ。
白い身体がビクンビクンと痙攣していた。
部屋に籠もった臭い。
散らばったティッシュ。
彼がもう何時間もこうしているのは間違いなかった。
「はぁっ!!」
もう苦痛でしかないような声を彼は上げる。
でも、勃ちあがってはいても、絶頂を迎える様子はなかった。
それでも彼はそこを扱き続ける。
泣きながら。
「止められないんだね」
男は察した。
「見るな!・・・出て・・行け!」
彼は泣きながら言った。
先を執拗に弄りなんとか絶頂にいこうとしている。
男は友人にその場で電話をかけた。
来られたら困る。
こんな彼を見せるわけにはいかない。
僕以外が見てはいけない。
「・・・おう、どうだった?」
友人は聞く。
「大丈夫だ。僕に任せて。明日また連絡する」
そうとだけ言って、男は電話を切った。
彼に近付く。
「来るな!」
彼は怒鳴った。
男はため息をついた。
「大丈夫、何もしないから。困ってるんでしょ・・・」
男は優しく話かけた。
彼の顔がクシャクシャに歪んだ。
かろうじて自分を保っているように見えた。
怯えきっていた。
「・・・止められない」
彼は苦しげに言った。
「出ないのに・・・もう、出ないのに・・・」
彼はそう言いながらも、その指は自分のそこを扱くことを止めなかった。
男には覚えがあった。
心のバランスが狂っているのだ。
昔、あの男に犯されてから、セックスばかりしていた時、こんな感じになった。
男の場合は自慰ではなく、複数でのセックスなどでこうなっていたのだが。
これはもう、気持ち良いものではない。
ただの飢えだ。
「大丈夫。助けてあげるから触ってもいい?」
男は彼の側に跪く。
「触る・・・な!!」
彼は怒鳴る。
こんなになっても男を拒否する。
男の胸は痛んだが、自業自得なのだと言い聞かせる。
「抱かないから安心して。助けるだけ。君は今病気なの。これは君がしたくてしてるんじゃないから」
安心させてやる。
「オレ・・はこんなの・・したく・・ない。あなたも・・・嫌いだ・・」
彼は少し安心したように目を潤ませる。
嫌いと言われてさらに傷つく。
「だから助けるね。・・・絶対に抱かないから触らせてね」
男は優しく言った。
彼は目を閉じた。
了承ととり、男は彼をそっとだきあげた。
身体はドロドロに汚れていて、肌は上気していて、ビクつく身体は男がただ触れただけで、声をあげるほどで。
唇をかみしめて、押し倒したくなるのを耐える。 これも罰だ。
でも、この罰は甘い。
「もう、前ではイケないと思うから、後ろでイカせるね」
男は囁いて、彼の後ろの穴に指を伸ばす。
「止め・・」
言いかける彼の唇を撫でて黙らせる。
「抱かないから」
安心させるように背中を撫でる手にさえ彼は乱れた。
「はぁっ、あっ」
彼は喘ぐ。
指をいれた。
散々弄っていたのだろう。
そこはすっかり柔らかくなっていた。
「自分だと後ろだけではイケないんでしょ」
男はもう良く知っているそこをゆるゆるとこすりたてた。
「あっ・・・あっ!!」
やっと来た絶頂にかれは救われるように歓喜する。
「イカせてあげる」
男は安心させるように囁いた。
「あなたなんか嫌い嫌い嫌い・・・アアッ!」
彼は叫びながらイく。
「うん、わかってる」
彼は切なくなる。
でも連続でイせるためにさらに、指をそこで動かす。
中がうねっているのがわかってツライ。
ここに入れたらどんなに気持ち良いだろう。
耐える。
代わりに抱き締める。
彼の白い首筋に顔をうずめる。
唇を落とすのは我慢して、その肌を頬に感じる。
これくらいは許して欲しい。
「あっ!!ああっ!!」
彼は男にすがりつくのが可愛かった。
服なんか着ないで裸で抱き合って、背中に爪を立てさせたかった。
「ああっ!」
彼の背中がしなう。
またイったのだ。
「あなたなんかあなたなんか・・・」
彼が泣いている。
綺麗なアーモンド形の目から涙が溢れてくる。
綺麗だ。
でも、そんなに嫌かと思うと悲しい。
「オレは・・・あなたしか知らないのに・・・ズルい!!」
壊れた彼が口走り始める。
男は歓喜した。
強く抱きしめてしまう。
この五年誰もこの身体に触れなかったのだと知って。
「あなたしか、知らないから、オレ・・・あなた
のこと考えて・・・ずっと、自分でしてしまってて・・・アアッ!」
彼はまたイった。
男の胸は高なる。
彼はずっと僕のことを考えてしてた。
それがどれだけ嬉しいことか。
「どうせ、他の人と・・・比べてたくせに・・・オレなんて・・・オレなんて・・・つまんなかったんだろ・・・やぁっ!!」
彼は泣き叫んだ。
男の首にすがりつきながら。
多分何を言っているのかはわかっていない。
プライドが高い彼がこんなことを言うはずがないから。
連続で立て続けにイカせる。
ガクガクと身体がゆれて、口は開いたままだった。
涎を垂らす。
目は潤んで焦点など合っていない。
いやらしい顔だった。
この顔は僕しか知らないんた。
男は嬉しかった。
彼はとうとう意識を飛ばした。
快感を受け入れる容量が溢れてしまったのだ。
スイッチを強制的に切ってやったのだ。
意識を飛ばすためにしたのだけど、もっと彼の本音を聞きたかった。
男は残念にも思う。
本当は男をどう思っているのか、もっと聞きたかった。
ぐったりと横たわる彼の髪を撫でた。
風呂に入れてやろう。
精液で汚れた身体を綺麗にしてやろう。
心のバランスが壊れているのだ。
自分が現れたのも間違いなく関係しているだろう。
でも、彼は音楽さえ失ってさえいるのだ。
もっと前から心は蝕まれていた。
それが少しずつ表に出てきているのかもしれない。
自分がどれだけ彼を傷つけていたかを思い知らされた。
「他の人と比べてたくせに」
と言われて死ぬほどつらかった。
そんなことを思わせてしまったのかと思って。
「・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい」
こんなに傷つけてしまうとわかっていたら絶対にしなかったのに。
「あなたなんか嫌いだ」
彼の言葉が突き刺さる。
その言葉の威力を彼は分かっていない。
「ごめんね。でも、僕は君を愛してるんだ・・・」
男は力なく呟いた。
そして、彼を風呂に入れる前に、彼を見ながら自分のモノをとりだし扱き始めた。
ホント、ホント、これくらいは、許して欲しい。
男はため息をついた。
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