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#4

「キナリ様の言うことは何でも聞いて差し上げますから。お願いですから、ここから動かないでくださいね!」 お願いを聞いてあげるフリをして、ちゃっかり僕に命令をして、ツィーが部屋から出て行った。 動きたくても、動けない。 元の世界とこことの入り口である蔵の鏡が、祖父の狂人じみた凶行により割れしまって。 そのため、僕の左足は思った以上に重傷を負っていた。 足首の腱が切れちゃってて、絶対安静状態。 従って、動きたくても、動けない。 よって、アルナイルとの獣じみた激しいセックスもお預け。 だから、最近、アルナイルがやたらと僕に引っ付きたがる。 「キナリ。具合はどう?」 ツィーと入れ替わる感じで。 アルナイルがお菓子を片手に、半開きとなった部屋のドアから顔を覗かせた。 にっこり笑うと、軽い身のこなしでスルッとベッドの中に入ってくる。 でも、これはこれで嬉しいんだ。 僕はアルナイルと、たくさん話がしたかったから。 お互いの手を重ねて、肌を密着させて。 僕は今までのことを、そして、封印していた記憶のことを、少しずつ、少しずつ。 全てアルナイルに話したんだ。 「辛かったね………。そんな辛いこと、無理に思い出させてすまなかった」 「…………」 「キナリ?………どうして、泣いてるの?……笑ってるのに、何で泣いてるの?」 「…………ホッと、してる」 「キナリ………」 「正直、ドン引きされると思ったから。 ………祖父にヤられちゃったとか言ったら、番とか無かったことにされちゃうのかな、とかさ」 「そんなことしない!!絶対、しないよ!!」 「………ありがとう、アル」 「まぁ……。あんなに幼いのに初めて会って、すぐデきたからさ。なんか凄いなとは思ったけど……」 「…………悪かったね」 「いや!!そういう意味じゃなくて!!……だから!!その!………ごめん」 「謝らないでよ。………僕はあの時から、アルに助けてもらってばっかりいる………」 「………ボクの方こそありがとう、キナリ。エニフを助けてくれて。………ボクのことを愛してくれて、ありがとう」 アルナイルはそう言って、僕のおでこにキスをする。 「エニフは………なぜ、あそこにいたの?」 「浜辺を歩いていたら、偶然見つけたらしい」 「そうか………偶然とは言え、エニフを怖い目に合わせちゃったなぁ」 僕はアルナイルの肩に頭をのせて、アルナイルから漂う香りと穏やかな体温を感じた。 番の繋がり、って言うのかな。 それとも、強い運命の力なのかな。 アルナイルとほんの少し繋がっているだけで、僕はとても安心する。 ………この位置だけは、誰にも譲れない。 こんなにワガママで、いいんだろうか。 今までぼんやり過ごしてきた反動なんだろうか? アルナイルのこととなると、子どもみたいに独占欲が湧いてくる。 僕はアルナイルの手に指を絡めて、強く握った。 「………どうしてあの入り口は、僕を過去に連れて行ったんだろう。 どうして………僕を祖父に引き合わせたのかな……」 「キナリの願いを叶えたんだよ、きっと。 ボクが強く〝汀の運命に会いたい〟と強く願ったのと同じように。 本当のことを知りたいキナリを、助けてくれたんだよ」 「そうだ。………そうだね、アル」 僕とアルナイルは視線を交わして、唇を重ねた。 あの頃と変わらない、柔らかくて温かなその唇。 その唇の奥から、割って入る舌が官能的に絡まってくる。 「キナリのお祖父様は、アルファだったのかもしれないね」 「………アルファ?」 「………キナリの世界では、そういう概念がないんだろ? だから、いつも満たされなかったんじゃないかな。 キナリに何故惹かれるのか、原因すら分からなくて。 身体的にも感情的にも、キナリに対して不安定で。 そして満たされない欲求に、常に不満を抱えている。 そんなかわいそうなアルファだったんだろうね」 「欲求不満といえば、アルもだろ?」 「え?」 「これ………ガチガチじゃないか」 実はさっきから、かなり気になっていた。 アルナイルの絶倫の象徴がギンギンに勃って、僕の手や足に当たっていて。 アルナイルは、バツが悪そうに視線を逸らす。 「かなり、我慢してるだろ?アル」 「うん……まぁ、ね。でも、平気。キナリには無理をさせられないし」 「口……で、してやろうか?」 「はぁ?!?!」 「口なら動かなくていいし、大丈夫だから」 「だ、だめだって!」 「キツいんだろ?」 「でも!」 「いいから、いいから」 僕は渋るアルナイルの衣類に手をかけて、それを下の方にズラした。 ビンー、って。 音がするんじゃないかってくらい、我慢の限界………いや、限界超過に達しているアルナイルの凶器がそそり立つ。 「アルナイル、膝立ちして。僕、動けないから」 アルナイルは顔を真っ赤にして僕を跨ぐと、上衣を口に咥えて膝立ちをした。 アルナイルの極太極熱な凶器が、僕の頬をグィんと掠めて、先の方からは透明の液体がタラタラと滴り落ちる。 僕はそれを浅く咥えると、舌先でその凶器と化した先っぽを転がした。 「……っん!!」 ………なんだよ、それ。 アルナイルは僕が裏筋やカリ首を愛撫する度に、荒い呼吸で小さくビクつかせて、身を捩らせる。 ………めちゃくちゃ、かわいいんだけど。 と、いうか。 そんな姿を僕以外に見られたくないし、見せたくないし。 でも、なんか………。 そう………イジワルしたくなっちゃう。 僕は焦らすように、浅く深く咥えて、強く弱く舌でシゴく。 「……らめ……らめ、らってぇ………」 くぐもる声が、必死にイくのを我慢している感満載で、つい僕は調子にのって、より一層緩急をつけて舐め回した。 「……っ!!だめだって、ばっ!!」 ………限界突破って、こういうこと言うんだろうな。 あんまり焦らして、イジワルをしていたアルナイルの何かが崩壊して。 アルナイルは僕の髪を掴んで、体を押し付けると勢いよく腰を振る。 「んくっ!」 喉の奥にまで達するアルナイルな極太極熱のそれが、僕の口の中を擦ってさらに大きくなるのを感じた。 ………ヤバい。 苦しいけど、気持ちいいし。 そのアンバランスな感覚と感情に、僕の目頭は熱を帯びてくる。 ………煽んなきゃ、よかった……かも。 「あ……だめ………イ……っあぁっ!!」 喉の奥に流れ込む、苦さと熱さ。 勢いよく口から引き抜かれたアルナイルの先っぽから、踊るように白い液体が飛び散って、僕の顔や胸元に飛沫した。 ………本当。 目一杯………我慢していたんだな、アルナイルは。 「ご、ごめん!!キナリ!!」 「……あー、だい……だいじょうぶだよ……」 「………っていうか」 「何?」 「おさまらなくなっちゃった……んだけど」 「は?」 「ごめん、キナリ!ちょっとだけ我慢して!!」 「え?!ちょっ…ちょっと!?待っ……や、アル!!」 アルナイルは、「お前はマジシャンかっ?!」とツッコミたくなるような素早さで、衣類をサッとはぎ取ると、僕の右足をその肩にかけ、間髪入れずに僕の孔に萎えない凶器をねじ込んだ。 入れただけで、中に流れ込むアルナイルの熱い液体。 その熱さと速さに、僕は驚愕して身を捩った。 「やだ……安静なん……だって………だめ……やぁ」 「ギャーーーーッ!!」 ガシャーン!! 突然、断末魔のような叫び声と、陶器か何かが派手に落ちる音が大きく部屋に響き渡って。 僕とアルナイルは驚きのあまり抱き合うように体を密着させる。 その賑やかな音のする方向には、茹で上がったように顔を真っ赤にしたツィーが仁王立ちしていた。 その足元には、粉砕した白いティーセット。 「ななな何やってるんですかーっ!?あれだけ動かないでくださいって、お願い申し上げたはずですーっ!!」 ツィーはソファーに置かれていたクッションを手に取ると、それを振り回してアルナイルをポカポカ殴り出す。 「キナリ様は怪我人なんですよ?!無理させたら大変なんです!!こればかりは、いくらアルナイル様といえど許せません!!」 「わっ!…ごめん、ごめんってば、ツィー!」 「アルナイル様!!謝る相手が間違っておいでです!!私じゃありません!!キナリ様です!!」 「わわわ…わかったって!!分かったから、叩かないで!!」 「んもーっ!!アルナイル様、最低です!!」 絶対的なアルファが、自分より小さくでかわいい男の子にポカポカ殴られている様が。 絶対的君主に歯向かってまで、僕を守ろうとしているツィーの様が。 その様が、あまりにも生き生きとエネルギーを発していて。 当事者であるにも関わらず、僕は思わず笑ってしまった。 ここに来てよかった。 アルナイルに、ツィーに出会えてよかった。 ………もう二度と、元の世界に帰ることはないけれど。 ミモザとかSOWの面々の問題も、山積みだけど。 この瞬間、僕はこっちの世界で生きていこうと、心に誓ったんだ。 『……それでも!キナリ様のお怪我は、まだ完治には程遠いんです!……背負ってって………。そんなに重要なことなんですか?!SOWは?!』 部屋の外で何やら、ツィーが熱くなっている。 僕以外で、ハッキリモノを言うツィーを、僕は初めて見た気がする。 ………要は、外面がいいんだけどさ。 僕はツィーの肩を借りて、ようやくベッドからソファーに動けるまで回復して。 ソファーの上で、子どもが読むような絵本をめくっていた。 SOW、かぁ………正直、面倒くさいなぁ。 ツィーの様子からして、また緊急のSOWの開催が言ってきたんだろうな。 でも、こんなに急に………。 何かあったか。 または、僕の糾弾か。 いずれにせよ、僕がらみだとは容易に想像がつく。 じゃなきゃ、こんな怪我人なんて呼ばないよな、普通。 ガチャー。 ドアの乾いた金属の音が響いて、ドアの向こう側から、ツィーが渋い顔をして入ってきた。 「どうしたの?ツィーさん。また、SOW?」 「はい……。キナリ様のお怪我の状態のことをお伝えしているのに、全く聞く耳をもたれなくて……。出席しろ、の一点張りなんです」 「いいよ、行く」 「え?」 「そのかわり、ツィーさんの肩を貸してくれない?」 「……無理を、なさらないで。キナリ様」 「大丈夫だから。………あと」 「あと?なんでございますか?」 「………タコワサ、作ってくれない?」 僕の言葉にツィーは一瞬目を丸くして、そして、楽しそうに笑った。 「全く、もう………。キナリ様は、ゲンキンですね。かしこまりました。タコワサも作って差し上げます。SOWにもお連れします」 「ありがとう、ツィーさん」 ………大丈夫。 もう、不安とかなにもない。 僕はアルナイルと番になって、過去も何もかも全て乗り越えたんだ。 「うん、大丈夫」 僕は自分自身を鼓舞するように、呟いた。 「お怪我をされているのに、わざわざ呼び出してごめんなさいね、キナリ様」 ミモザの笑顔は、いつものとおり穏やかで。 その声は、綺麗に響いているのに。 いつものSOW、いつものメンバーなのに。 どことなく、いつもと雰囲気が違った。 ピリピリしてるというか。 空気が固いというか。 お腹のあたりがモニョモニョして、嫌な予感がする。 「キナリ様……大丈夫ですか?」 ツィーがこの状況に耐えきれず、僕の袖をツンとひいて呟く。 「大丈夫。いつものことだから」 前回、その威力を遺憾なく発揮した食品凶器のタコワサも。 心なしか今日は、その存在が薄く弱々しく見えた。 「みなさん。今日お集まりいただきましたのは、言うまでもございません。先日、キナリ様が大怪我を負われた件について、急遽みなさんに集まって頂きました」 ………あー、ほら来た。 やっぱり。 ウワベだけは心底心配していて、実は僕の糾弾とか言うヤツだよ。 「キナリ様は、エニフ様を強引に異世界に誘い、エニフ様を危険な目に合わせました。 アルナイル様の運命である私たちの仲間を、葬りたかったのでございましょう。 私たちはキナリ様を受け入れ、仲間として仲良くして差し上げていたのに……。 そんな家族のような仲間を、危険な目に合わせるなんて言語道断。 従いまして、私たちはキナリ様に厳罰を希望します」 ………え? エニフ………何……? 葬りたかった、とか……どういう、こと? ミモザの発したあまりにもぶっ飛んだ発言に、僕は何もいい返すことができなかった。 というより、言葉が出てこない。 かろうじて、動かせる視線を無理矢理動かして、僕はエニフの様子を伺った。 俯いて、その表情を見せないエニフ。 ねぇ………エニフ、何か言ってよ。 違う、って。 僕の誤解を解いてよ……お願いだから、エニフ!! 非常に切羽詰まったこの状況の中、2人の奥様が動かない僕の両手首を掴んで床にねじ伏せた。 自由が効かない足のせいで、僕はあっさり拘束されて、同時に派手に椅子が倒れる音が耳をつん裂く。 「キナリ様!!あなた方!!キナリ様を離しなさい!!キナリ様!!」 僕と同じように体の動きを抑制されたツィーが、身を必死に捩って叫び声を上げた。 ………肝が冷える。 頭は冷えていて妙に冷静なのに、心臓が耳のすぐ近くで鳴っているんじゃないかってくらい大きく鼓動する。 「そんな自分勝手な方は、いくら番といえど。 アルナイル様のお側にいる資格はない、と存じます。 …………私たち皆の総意に基づき、キナリ様を解放して差し上げることと致しました」 ………解放?! 何……どういうこと………? 混乱して、瞬きが多くなっている僕の目の前に、小さな火鉢が置かれた。 木炭が赤々と熱を放出して、その中に熱で変色した金属の棒が突き刺さっている。 何、これ……? 「番の印を焼き切れば、その番の契約は解消されると聞きます。 この焼印で、私どもがアルナイル様との番を解消して差し上げます。 ………素晴らしいことでしょう?キナリ様。 これであなたは自由になれるのです」 「ふざけるなっ!!キナリ様から離れろ!!」 言葉が喉に詰まってしまった状態の僕のかわりに、後方でツィーがミモザに噛み付くように叫んだ。 と、同時に。 バシッという鈍い音が響いて、ツィーの呻き声が小さくもれる。 ………そんなことで? 焼き切るとか、たったそれだけのことで……? 番なんて、解消できるはずない。 そんなの、僕が………感覚的に、本能的によく知ってるよ!! 僕のうなじについた番の証は、そんなもんで消えるはず………ないじゃないか!! 「そ………んな……」 「大丈夫ですよ、キナリ様。すぐに終わりますから」 「………そんな子ども騙しみたいな都市伝説、信じてるんですか?あなたは」 声も震えず、真っ直ぐに。 意外にも、僕は冷静に言葉を発することができた。 啖呵をきった以上、僕はミモザに反する姿勢を取らなきゃいけなくなってしまったけど。 でも………でも………大人しく「はい、分かりました。アルナイルを諦めます」って言いたくない!! 焼印を押されるとか、力に屈するようなこと自体、虫唾が走る!! 〝流されない〟………そう、決めたんだ!僕は!! 「番になったらわかる。 そんな焼印如きで、解消なんてできるはずない。 番は特別なんだ。 誰にも壊されない、誰にも……。 僕が邪魔なら、正々堂々と僕からアルナイルを奪えばいい!! こんな姑息な手なんか使わないで、真っ正面から勝負しろよ!!」 ちょっと前の僕なら、絶対に言わなかったであろう言葉が、淀みなく口から溢れた。 焼印をされたって、全然平気だ。 僕は、アルナイルしかいらない。 アルナイルは、僕を信じてる。 そんなことじゃ、僕とアルナイルの関係が揺らぐことはないんだ。 ミモザを下から見上げていると、その表情がみるみる変わっていくのが見えた。 いつもの貼り付けたような穏やかなミモザの表情が、見たこともないくらい歪んで………抑えられない怒りの感情を爆発させて………。 徐に火鉢に突き刺さった金属の棒を引き抜いた。 ………本気だ、ミモザは……本気なんだ。 なら、僕も………揺るがない本気を見せなきゃ。 こんなことじゃ………負けない、って。 こんなことじゃ、僕とアルナイルは揺るがないって!! 僕は迫る焼印の熱さを想像して、ギュッと目を閉じる。 ………ジュッーー。 「っあぁぁっ!!」 肉が焼けるような臭いがして、苦しそうな叫び声が上がった。 ………え……? 僕………じゃない………? 痛くないし、熱くないし………。 それに………僕を庇うように、誰かが覆いかぶさっている。 誰………誰……?! 「エニフ様っ!!」 え?………エニフ……? ツィーの今にも泣きそうな声で、僕は力一杯頭を上げたんだ。 ミルクティー色の波打つ髪が僕の顔にかかっていて、僕はようやく今の状況を理解した。 エニフが僕を庇ってる………。 庇ってるエニフの背中に、押し付けられた焼印の金属の棒が見えて………エニフは襲いくる苦痛に顔を歪めていた。 「エニフ………何、して………?」 「ごめん……ごめんなさい……。 キナリ様は何も悪くないのに………助けてくれたのに………。 こんなことに、なるなんて思わなかったんだよ………。 ごめんな、さい………ごめんなさい」 エニフの顔が僕の鼻先にあって、その綺麗な瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。 「エニフ、何をしているの!! さっさと退きなさい!! 退かないと、また前みたいに、アルナイル様の最下位になるのよ!!」 「……退かない!!最下位になってもいい!! キナリ様は、助けてくれたんだよ!! ………なんだよ!! キナリ様を元の世界に帰せって、命令したのはミモザ様じゃないか!! 皆にだってそう!! 一番の奥様だからって、皆を牽制して萎縮させて!! 何が仲間だよ!!こんなの仲間なんかじゃないよ!!」 ………エニフの言葉に、僕は胸が痛くなった。 エニフも、皆も、僕と一緒なんだ。 自分を守るため、これ以上傷つかないように。 流されて、自分を殺して………生きていくしかなかったんだ……。 「エニフ……退いて、お願い。もう、大丈夫だから………エニフ」 「退かない!!キナリ様がなんと言おうと、絶対に退かない!!」 ブワァァッー!! エニフに退くように悟して体を捩った瞬間、空気な震えて、まるで爆発でもおこったような風が体を強く打ち付ける。 強い風にのって、アルナイルの香りが体にまとわりついた。 「んあぁっ!」 「あっ!!」 僕をおさえつけていた奥様や、焼印を振りかざしていたミモザ、それに、僕に覆いかぶさっていたエニフまで。 一斉に顔を紅潮させて、身悶えるように体を捩らせる。 ………発情してる……? いきなり……? いきなり、発情期になったわけ? こんな緊迫した瞬間に………??? ………えぇ??? 「キナリ!大丈夫?!」 エニフをはじめ、いろんな奥様たちの下敷きになった僕を、愛しい声の主が抱き起こした。 「………アル。……どうして……?」 「ボクはアルファだよ?そしてキナリの番だ。大事な人を守るためには、なんだってするんだよ」 ………そうか、これが………絶対的なアルファの力。 いつもアルナイルが飄々としているのは、感情を爆発させないため。 一度爆発させた感情は、それが怒りでも、悲しみでも。 全てのオメガやベータ、アルファでさえ、その力に抗えない………番の僕を除いては。 いつもの優しい表情なのに、そのアルナイルの青い目には、ユラユラと炎が宿っていて。 僕はたまらず、アルナイルを抱き寄せた。 「アル!!僕はもう大丈夫だから!!だからもう……だから、だから………落ち着いて!!アル」 これ以上、アルナイルが感情を爆発させたら、アルナイルが壊れてしまうんじゃないか、って。 「アル!!アル!!……しっかりしてっ!!アル」 奥様たちが発情に塗れている部屋の中、僕はアルを抱きしめて、深いキスをしたんだ。 ………溶けて、溶けろ!! 僕がアルナイルな怒りとか、負の感情を溶かしてあげる。 だから………だから………アル………アルナイル。 その感情を僕にぶつけて………!! 「……ん、はぁ……ぁあっ!」 アルナイルの強い瞳でも犯されそうなのに、ほとんど本能のアルファと化したアルナイルは、僕の足を広げて、秘部にその勃ち上がったアルファの象徴をガンガンにぶち込んでくる。 発情で苦しむ奥様たちを尻目に、僕はアルナイルに奥深くまで貫くように犯されて、アルナイルの感情を見に収めた。 見られてる、とか。 恥ずかしい、とか。 そんな感情、逆に鬱陶しくて。 この、絶対的アルファに抱かれているという優越感の方が大きい。 アルナイルに突き上げられて、上下に体を揺らされている中、僕は床に倒れて身悶えているとミモザと目が合った。 ………ほら、言っただろ? 番の繋がりは、最強で強固なんだ。 焼印如きじゃ、解消なんてされない。 ………だって、僕らは……〝運命〟。 〝汀の運命〟なんだから………。 「………キナリ…様………足……足……ダメ、なんですぅ……」 結構、なりふり構わずガンガンにセックスしている真っ最中の僕に。 アルナイルのアルファの気迫に動けなくなったツィーが、振り絞って………この期に及んで言った言葉が、妙にツボにハマった。 やっぱり、ツィーは変わらない。 アルファに支配されるアルナイル、オメガに溺れる僕。 そのいいブレーキがツィーで。 つい、笑いがこみ上げてきた。 「……ふ、ふふっ」 「……なに………どうしたの?……キナリ」 僕の笑い声に反応したアルナイルが、正気に戻ったように呟く。 瞳の中の炎が、いつの間にか消えている。 体をビリビリと泡立てるような、絶対的なアルファの気迫も消えて………空気が、凪いだ。 僕はアルナイルに腕を回して、抱き寄せて肌を重ねる。 そして、近づいたアルナイルの耳元で、囁くように言ったんだ。 「アル………愛してる。ここに連れてきてくれて、ありがとう。アルは僕の〝汀の君〟だよ」 「キナリ様ーっ!!ご準備ができましたよ!!」 透明度バツグンの浜辺でのんびり惰眠を貪っていると、ツィーの元気な声が僕の目を覚醒させる。 こっちに来て初めて。 僕は浜辺でのんびりバーベキューなんてものを催した。 アルナイルと、元SOWの面々とその侍従とで。 あんなことがあった後だったし、とにかくみんなで楽しく、腹を割って話をしたくて。 綺麗で息苦しかった部屋を飛び出し、開放感あふれる浜辺で過ごす。 「わぁ、本格的にバーベキューだね!ツィーさん!」 「仰せのとおりにしたまでですよ、キナリ様。お肉もお野菜も、いい感じに出来あがりました。皆様をお呼びくださいませ」 「うん」 ………変わったな、僕。 元の世界にいた僕は、こんなに笑っていなかったし、どこか斜に構えて、流されて。 ………SOWの面々とも、なんとなく打ち解けたし、エニフとは親友と呼べるまでの間柄となった。 SOWのボス的な存在だったミモザも、あの事件直後は居心地悪そうにしていたけど、今は普通に話せるようにもなったし。 皆一緒じゃないんだって、改めて思った。 だって、皆こんなに笑ってるし、楽しそうに浜辺ではしゃいじゃってさ。 皆一律に、同じような偽りの仲間意識なんて、邪魔なだけなんだよ。 そして、僕は。 ………ようやく、本当の僕になったような気がするんだ。 「キナリ!!」 アルナイルは僕の名前を呼ぶと、後ろから捕まえるように僕の体を抱きしめた。 「アル」 「浜辺でこんなことしたの初めてだよ。すごく楽しい!ありがとう、キナリ!」 「実を言うと、僕も小学生で行ったキャンプ以来だよ?………でも」 「でも、何?」 「あの時はこんなに楽しくなかったなぁ、って」 僕の言葉に、アルナイルは猫みたいに顔を擦り寄せる。 「キナリ、ボクの〝運命〟。ずっと一緒にいて、キナリ」 僕は返事をする代わりに、その陶器のような頬にキスをした。 あの日ーー。 君に通ずる汀に落ちた瞬間から、僕は恋に落ちていたのかもしれないんだよ?アルナイル。 人生って、本当分からないな。 ………未だに、自分に起きたことが信じられないけど。 あの頃に抱えていた不安や倦怠感なんて、はるか昔に見た夢みたいで。 今の僕からは、愛しい人と同じ香りによってはこばれる幸せが、体に染み入るように増幅して発散する。 そんな幸せを、小さくて強固な幸せを見つけたんだ。

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