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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第12話
運動部に連休という概念はほとんどない。
学生の特権である夏休みや冬休み、春休みはもちろん、ゴールデンウィークやお盆、年末年始といった世の中が浮足立つ大型連休ですら部活に勤しむ学生には有って無いようなものだ。
運動嫌いな人からすれば休みらしい休みが無いなんてと哀れまれるだろう生活。
しかし好きな人には堪らないものだろう。
現に部活動の時間こそ最高の時間だと豪語している悠栖は逸る気持ちを抑えきれず、一番乗りの勢いで今日もグランドに立っていたぐらいだ。
「よし、二〇分休憩。水分補給はしっかりしとけよ」
「うっす!」
グランドの隅で新入部員用の基礎体力向上を狙った地獄の筋トレメニューを一〇セット終えた頃、マネージャーから少し早めの休憩が告げられた。
いつもなら筋トレ祭りの後は持久力向上のためにグランド周回が言い渡されるはずなのに、今日は随分と優しいプランニングだ。
悠栖はタオルに手を伸ばすより先に顔面から吹き出す汗をシャツの袖で拭い、隣で酷使した筋肉を伸ばすために軽くストレッチを行う唯哉に近づくと「休憩終わったら死にそうな予感がする」とこの後のトレーニングメニューを予想して身震いする仕草を見せた。
「どうかな。ただ単に熱中症を警戒してるだけな気がするけど、確かにこの後苦行だからって気もするな」
「ああ、熱中症か。確かに今日暑いよなぁ。見ろよ、もう汗やべぇ!」
額からこめかみへと伝う汗も凄いが、それ以上に高機能な吸汗速乾性を売りにしているシャツがヤバい。
まだ五月なのにランニングの後大量の汗でシャツ絞れてしまいそうだ。
胸倉を掴んで身体に空気を送るように手を動かす悠栖。
唯哉は昨晩用意しておいた冷凍スポーツドリンクで水分補給を行いながら明日は今日よりも暑くなるらしいぞと苦笑いを浮かべた。これから秋になるまでの数ヶ月だけは室内スポーツが羨ましい。と。
唯哉の言葉に悠栖は同感だと肩を竦ませた。
サッカーは大好きだし、試合やミニゲームをさせてくれるなら毎日だってプレイしたいぐらいだ。
だけど、これから夏に向かう季節、三〇度を超す真夏日が続くと外での活動は思うようにいかなくなる。
悠栖は一年中サッカーしやすい気温にならないかと願望を口にして、グランドで二チームに分かれて練習試合を行っている先輩達の姿を羨ましそうに見つめた。
「本当、サッカー馬鹿の名に恥じない奴だな」
「! お前が言うなよ。俺以上にサッカー馬鹿のくせに」
「俺はサッカー『命』なだけで『馬鹿』じゃない」
サッカーの事を考えている時の顔は昔と全然変わらない。
そう茶化してくる唯哉に悠栖は「お前もな」と笑うと、汗として流れ出た水分を体内に補充しようと自分のペットボトルを探し辺りを見渡した。
だが、ペットボトルを置いたはずの場所には何もなくて、移動した記憶がない悠栖は唯哉に所在を尋ねる。俺の飲み物が消えたんだけど。と。
「本当にそこに置いといたのか?」
「た、ぶん? いや、確かにそこには置いたんだけど、動かしたっけなぁ? って思ってさ。……たぶん、動かしてはないはず、なんだけど……」
無意識に移動させたのかも? なんて考えこむも、部活が始まる前には確かに在ったはずだと記憶を辿って、訳が分からなくなる。
記憶が正しければ、部活が始まってからペットボトルには近寄っても居ないはずだからだ。
「……とりあえず水分補給はしとけ」
「! おう! サンキューな!」
あれぇ? と自分の飲み物を探していれば、頬っぺたに冷たいものが触れてびっくりした。
弾かれた様に振り向けば唯哉が自分のペットボトルを差し出していて、探すのは後回しにして脱水症状を回避するべく親友の好意をありがたく受け取ることにした。
まだ半分凍ったそれは想像以上に冷たくて、筋トレで熱を持った筋肉のせいで上がった体温が体の中から冷まされていくような感覚を味わう。
ごくごくと勢いよく喉を潤せば、すぐに溶けた分を全部飲み干してしまった。
一応一口で止めておこうと思っていた悠栖はそれに「やべ……」と声を漏らし、半笑いで唯哉に視線を向ける。
「わりぃ……、やっちまった」
「気にするな。そもそもあんまり残ってなかったし」
おずおずと凍ったスポーツドリンクの塊だけが残るペットボトルを差し出せば、「らしくない」と笑われる。
悠栖はペットボトルを受け取ると風通しのいい場所に移動しようと促してくる唯哉について歩きながらも、我が親友ながら本当に良い奴だとしみじみと思った。
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