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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第27話
「言い分はそれだけか?」
寮に帰ってきた悠栖は怒りに身を任せたまま一直線に那鳥の部屋に向かった。
そして部屋で自習していた那鳥がドアを開けた瞬間その胸ぐらを掴み、部屋に押し入った。
悠栖の様子はまさに『怒りに我を失った』と形容するのがピッタリで、普通ならこの状況に戸惑いや恐怖を見せるはず。
だが那鳥は一瞬驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻したようにいつものすまし顔に戻り、逆に悠栖を煽ってきた。
那鳥の挑発的な言葉に触発されて悠栖は那鳥に怒りをぶつけた。唯哉に対する非礼と無神経な言葉を責める言葉を捲し立てた。
息を吸うことを忘れるほど一方的に那鳥を問い詰めた悠栖。
興奮と相まって呼吸を乱す彼が責める言葉を途切れさせた時、那鳥は表情を微塵も変えず『言いたいことは今全部言え』と視線を向けてきた。
自分とは打って変わって冷静な態度は、余計に苛立ちを覚えさせる。
だが、詰る言葉を我慢したのは那鳥には何も伝わらないと悟ったからだ。
自分がいくら怒って怒鳴ろうが、那鳥の信念には全く影響を及ぼさないと分かってしまったからだ。
「言いたいこと言ったなら、とりあえず放してくれないか?」
「! っ―――、これで満足かよっ」
いつまでも胸ぐらを掴まれていたら胸元の生地が伸びるだろう?
何処までも冷静な那鳥の声に、熱くなっているのは自分だけだと思い知る。
いや、違う。
これは那鳥にとっては取るに足らない事なのだと思い知ったのだ。
悠栖は苛立ちに悔しさを滲ませ、那鳥を解放する。
すると那鳥は服を整え、腕を組むと自分を真っ直ぐに見据えてきた。
「天野の言いたいことは分かった。怒ってることも、まぁ。……でも、なんでお前が怒鳴り込んでくるんだ?」
「『なんで』って、決まってるだろうが! チカは俺の親友だっ!!」
「っ、そう怒鳴るなよ。……隣に聞かれてもいいのか?」
感情が抑えられず再び声を荒げる悠栖。
那鳥は肩を竦ませ、尋ねてきた。その親友の失恋をスピーカーで宣伝してる自覚はあるのか? と。
那鳥には挑発している気などない。ただ事実を述べただけ。
でも、今の悠栖には感情が伺えない表情で発せられる言葉は全て挑発に受け取れた。
一歩足を踏み出し、もう一度胸ぐらを掴もうと手を伸ばす悠栖。
しかし那鳥はその手を払い除けると、「二度も許す義理はない」と初めて凄んできた。
「お前の顔に泥を塗ったから一度目は抵抗しなかっただけだ。文句も全部聞いてやった。……天野はこの件に無関係だけど、一応世話になってるしな」
自分なりの誠意だと言った那鳥が何を言っているか分からない。
顔を顰めて理解できないと言葉よりも表情で語れば、那鳥は溜め息を吐いた。
「お前があいつに俺を紹介したんだろうが。それなのに俺はお前の顔を潰した。だから、一度目は抵抗しなかった」
紹介したお前が怒るのは当然だ。
そう言葉を続ける那鳥。
どうやら那鳥は悠栖が怒っている理由を『紹介した自分のメンツを潰したから』だと思っているようだ。
悠栖はそれに気づいて「違う!」と那鳥の言葉を否定した。
「俺はお前がチカを傷つけたから怒ってんだっ!!」
「だからそれは天野が俺達を引き合わせたって罪悪感があるからで―――」
「違うって言ってるだろうが!! 俺の事なんてどうでもいい!! チカは本当に良い奴なのに、お前はチカのこと知りもしないで酷い言葉を浴びせただろうが!!」
唯哉にとって、那鳥は『初恋』だ。確かに浮かれきっていて周りが見えていないところも多々あったのは事実だ。
でも、それでも那鳥が嫌がることはしなかったはずだ。
唯哉はただ那鳥が好きだっただけで、那鳥から罵倒されるようなことは何もしていない。
それなのに那鳥は、那鳥を想って気持ちを口にしなかった唯哉に対してわざわざ想いを確認し、告白するように仕向けた。
そしていざ告白されたら想いを受け入れなかっただけではなく、必要以上に傷つける言葉を浴びせた。
この事実だけを見た時、酷いのは誰だ? 『同性愛』を嫌悪している那鳥を好きになった唯哉だろうか?
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