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LOVE IS SOMETHING YOU PASSIONATE. 第1話

 幼い頃から女の子みたいに可愛いと言われていた天野悠栖は成長しても全く男らしくならない見た目に長年劣等感を抱き続けていた。それは昔は自分と大差ない容姿だった友人達が年月が経つにつれどんどん男になっていくのを間近で見ていたからか、それともそんな友人達が郊外の山奥の広大な敷地を有する全寮制の男子校という特殊な環境で女の子の代わりに色恋の目を自分に向けるからかは分からない。いや、むしろどちらも劣等感を抱くに至った原因かもしれない。  友人達から『好きだ』と告げられる度、体格のいい友人達に羨望を抱きながら女の子の代わりをしてやる気はないとその想いを拒絶してきた。友人以上に見ることはできない。と。  幸いなことに無理矢理悠栖をどうにかしようとする輩はいなかったが、想いを拒絶したせいで友人は一人、また一人彼の前から立ち去って行った。それは彼らが『女の子の代わり』として悠栖を見ていたのではなく彼らなりに本気で悠栖を想っていたからだったのだが、それに悠栖が気づいたのはつい最近の事だった。  男は女を好きになるべきだ。なんて、そんな固定概念のせいで友人達の想いを本気にしてこなかった悠栖。だが、いつか可愛い女の子と付き合ってゆくゆくは結婚して家庭を築くだろう未来をぼんやりとだが描いていた悠栖が初めて好きになった相手は可愛い女の子ではなく、自分よりもずっと体格の良い幼馴染の汐唯哉だった。  男子校の同窓である唯哉の性別はもちろん悠栖と同じく男で、悠栖が長年友人達の想いを拒絶してきた要因ともいえる『男は女を好きになるべき』という世間の常識と呼ばれるものは、想いを自覚した時に覆された。だが青天の霹靂とも呼べる意識改革にも悠栖は戸惑うことはなく、むしろ今まで自分に想いを告げてくれた友人達に辛辣な態度をとってしまった罪悪感を覚えた。人を好きになる気持ちに『性別』は不要だったと知ったから。  想いを自覚した悠栖が玉砕覚悟で勢いのまま唯哉に告白したのが今から二週間前の事。そして好きな人がいると言っていた唯哉からその『好きな人』こそ悠栖本人だと告げられ、二人は晴れて恋人同士になった。  人生で初めてできた恋人は、人生で初めて好きになった人。浮かれるなという方が無理な話だ。そして悠栖は人より少し楽天的な性格だから、浮かれ具合は他の人のそれよりもご機嫌なものだった。クラスメイトからもチームメイトからも鬱陶しいと思われる程に。 (俺も一応自覚してるけど、でもだからってにやけるのは我慢できねぇーしなぁ)  惚気話は倦厭されると分かっている。だが、我慢できるものなら我慢するというもので、我慢できないからこの様なわけだ。ほぼ毎日クラスメイトから『ウザい』とあしらわれている悠栖は友人達には申し訳ないと思いながらも、残念ながら我慢してもらうしかないとぼんやり目の前で英語の教科書に視線を落とす唯哉に目をやった。 (ずーっと見てる顔だから全然気づかなかったけど、チカって結構、いやめちゃくちゃカッコよくねぇ? あ! そう言えば前に慶史が『雄臭い』って言ってたし、男らしさが滲む顔ってこんな感じなんだろうな)  黙々とノートにペンを走らせている姿を眺める悠栖は、暫く唯哉を観察する。見飽きているはずの唯哉の顔は見れば見るほどいい男で、これは恋人の欲目なんだろうが、悠栖は満足そうに笑みを浮かべた。すると僅かな空気の違いを感じ取ったのか、自分を見つめる視線に気づいたのか、唯哉が顔を上げた。 「どうした? 手が止まってるぞ?」 「別にどうもしてねーよ? ただ集中力切れたし真面目に宿題やってるチカの真剣な顔見て気晴らししてただけー」  分からない箇所があるなら教えられないだろうけど一応聞くだけ聞いてやるぞ?  そんな言葉を続けながら向き合うように姿勢を正す唯哉に、なんでもないことなのに嬉しくて笑みが零れてしまう。悠栖は愛しい存在に目を細めて幸せそうに笑い、今さっき感じた唯哉の容姿を褒めるように言葉を返した。すると、唯哉が返すのは鳩が豆鉄砲を食ったようなきょとんとした表情で、悠栖はそんな顔すら好きだと笑みを濃くする。  悠栖から『好き』を隠さない言葉を受け取った唯哉は恋人の満面の笑顔に驚きの表情を変え、頬を赤くして照れくさそうに「何言ってんだ」と笑い返すも動揺は隠しきれていない。滅多に動揺を露わにしない唯哉の様子に悠栖はにんまりと笑みを浮かべ、身を乗り出す。 「何々? チカ、照れてんの?」 「て、照れてねぇーよ、バカ」  バカ言ってないで宿題に集中しろよ。  そう言って身を乗り出す悠栖の肩を押し戻す唯哉の頬は赤い。照れていることなど一目瞭然だ。だが余りしつこくからかえば唯哉の機嫌を損ねかねないから、悠栖は大人しく元の姿勢に戻ると乗り気でない宿題を再開した。  薄く笑みを浮かべ英語の文法問題をこなす悠栖の姿は男子高生でありながらも愛らしい。きっと唯哉を想うからこその表情なのだろう。

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