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LOVE IS SOMETHING YOU PASSIONATE. 第2話

「……なぁ。人にサボるなって言っといて自分がサボんなよ」  視線がめちゃくちゃ突き刺さってるんですけどー?  宿題を再開して一分も経たずにペンを置く悠栖は唯哉からの視線に照れたような困ったような笑い顔を零す。顔に穴が開きそうだ。と。  するとそんな悠栖に今度は唯哉が身を乗り出し、「ならそんな可愛い顔するな」と手を伸ばしてきた。頬に添えられる唯哉の手に、悠栖はくすぐったいと笑う。 「だから、可愛いって言うなって言ってるだろ?」 「そんなこと言って、『可愛い』の意味が違うって分かってるんだろ?」  テーブルに上体を預ける唯哉が浮かべる笑みには色を感じる。悠栖は友人としての唯哉ではなく恋人としての唯哉の顔に胸を高鳴らせながらも身を乗り出した。  軽く上を向いて目を閉じる悠栖。そのキス待ち顔に唯哉がゴクリと喉を鳴らし、悠栖の望み通りキスをしようとした。  近くなる距離に唯哉も目を閉じ、唇を重ねる二人。触れ合った唇は十数秒で離れ、鼻と鼻が擦れ合う距離でお互いに目を開いて照れくさそうに笑い合った。 「えへへ……。七回目、だな!」 「数えるなよ」 「えぇ? ダメなの? なんで?」  嬉しいと顔は自然と笑顔になる。悠栖は唯哉のぬくもりを辿るように指で自分の唇をなぞり、幸せを噛みしめた。  その仕草は恋愛に不慣れな初心さで満ちていて、好きな子が照れながらも自分とのキスに嬉しそうにはにかんでいるのを見て平静でいられる男がどれほどいるかという話に流れは変わる。 「悠栖、もう一回していいか?」 「! き、聞くなよ、バカ……」  唯哉は立ち上がると悠栖の隣に移動し、改めて頬に手を添えてくる。障害物の無くなった距離に悠栖は顔をカッと赤らめ、困ったように目を伏せて視線を彷徨わす。だが、近づいてくる唯哉の顔に悠栖は赤い顔のまま上を向き目をぎゅっと閉じた。  ふにっと唇が触れ合う感触はこれで八度目。慣れるにはまだ早い。悠栖はドキドキと高鳴る胸の鼓動にもっと唯哉に触れたいと、触れて欲しいと湧き上がる欲求を感じた。 「ふふ……。チカが『男』の顔してる……」 「男なんだから当たり前だろうが……」  鼻先が擦れるのは、いつもならキスの後すぐに身を放す唯哉がまだ自分を抱き締めて離さないから。もう一度キスしたいと言わんばかりに唇をなぞられたら堪らなくなると言うものだ。悠栖は自分の唇をなぞる唯哉の親指に、誘うように薄く唇を開いてチュッと指先にキスを落とす。一度、二度角度を変えて口付ければ、また唯哉の喉がゴクリと鳴った。 「誘うなよ……」 「誘ってねぇーよ……」  嘘。めちゃくちゃ誘ってる。もっと唯哉に触れたいと、触れて欲しいとアピールしまくってる。  悠栖は自分ができる精一杯の色気を纏い、唯哉を誘う。すると唯哉は今まで一度も見せたことのない顔を見せ、額を小突き合わせて「煽るなよ」と熱っぽい声を出してきた。 「だから、煽ってねぇーってっば……」 「嘘吐け。お前、めちゃくちゃエロい顔してるぞ?」  唇が触れるか触れ仲の距離での会話はエロティックな雰囲気を醸し出して淫靡さを盛り上げてくれる。  悠栖が唯哉の唇を求めるように上を向けば、唯哉は焦らす様に僅かに首を引いてキスを避ける。そして悠栖が首を引けば今度は唯哉が悠栖の唇を追いかけてきて、更に焦らされた。 「チカ……」 「認めろよ、悠栖。誘ってるんだろ……?」  キスが欲しいと強請れば、誘っていると認めたらキスしてやると返される。何でそんな偉そうなんだと腹が立つも、キスが欲しいから腹立たしさをグッと堪えて「誘ってる……」と素直に認めてやった。  認めたらキスしてくれるんだろ? と上目遣いで唯哉を見れば、唯哉は困ったように笑いながらも両手で頬を包み込んでくるとそのまま悠栖が望むキスをくれた。  吸いつくようなキスは甘くて夢見心地になる。悠栖は唯哉の首に腕を巻き付け、もっと傍に居たいと恋人を引き寄せる。すると唯哉は悠栖の想いに応えるように一度離した唇を再び押し当ててきて……。 (キス、気持ちいぃ……)  できればもっと唯哉の傍に居たい。もっとずっと近くに居たい。でもそのためにはどうすればいいか分からない。いや、どうすればいいかは分かっている。今自分の中に燻っている欲を満たす方法が何かは、理解している。だが、手法が分からない。自分の持つ知識では肝心の部分が欠落しているから。

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