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ジャムより煮詰めて

 鍋の中で苺が形をなくし、くつくつと泡をたてはじめる。甘い匂いを嗅ぎながら一心不乱に鍋をかきまわしているのは――橋本伊織(はしもといおり)28歳、ガラス工房で働く職人だ。  すらりと高い身長は、あと二センチで180に届く。その2センチが足りなかったことを伊織は未だに悔いている。悔いたところでどうなるものでもないが、中学生の時にもっと牛乳を飲んでいれば……とか、成長期に強引にでも骨を伸ばしておけば……とか、足りない2センチを悔いるのは、伊織の恋人である尾川詠(おがわえい)の身長が185センチだからである。  7センチの差は大きい。定規で見るとさほど大した差には見えないのだが、詠を前にすると伊織はいつも無意識に見上げてしまう。例えその差が5センチだったとしても、なにも変わりはないのだろうが、ふたつ年下の恋人を見上げるという図が、伊織には許し難いのだ。  部屋のチャイムが鳴り、火を弱火にする。大股で玄関へと向かい、中からドアを開ければ185センチの大型犬が尻尾を振っていた――

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