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ジャムより煮詰めて
「なに、この匂い」
「……あぁ、苺を煮詰めてた」
「苺?」
「ジャムを作ってる」
詠の目が点になる。伊織がジャムを作っている。その事実が余りにも伊織とミスマッチすぎて、詠は理解が追い付かない。
「え……っと、伊織さんて甘いもの好きだっけ?」
「いや、特には」
そもそも今日は休日で、ジャム作りがいかに面倒で時間がかかるかということは、料理をしない詠でもわかる。焦がさないように煮詰めなくてはならないから、鍋から目を離すことも出来ないはずだ。現に伊織は詠をリビングに残し、鍋の前に戻っている。
「ねえねえ、伊織さん。なんでおれが来るってわかってて、ジャムなんか作ってんの?」
「……おまえが来るってわかってたから、ジャムを煮てる」
「え、おれジャム好きだとか言ってないよね?」
「あぁ、そうだな。聞いたことがない」
「じゃあ、なんで?」
その問いに伊織が答えられるはずもなかった。詠が来る。そう思うと緊張してしまって、いてもたってもいられなくなり、近所のスーパーに駆け込み大量に苺を買い込んだなんて言えるはずもない。
そうだ。ジャムを作ろう。
あまりにも突拍子もない考えだったが、なにかに集中していれば詠に気を取られることもないだろうと、伊織は詠がやってくる一時間前からキッチンに立っている。出来るならガラス工房に駆け込んで、ガラスを吹いていたいくらいだ。つまり伊織は緊張している。詠の顔をまともに見られないくらい、ドキドキしてしまっている。だが、それを詠に悟られてしまうのは、伊織のプライドが許さない。
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