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ジャムより煮詰めて
「……座ってろ。ジャムが出来たら、ホットケーキ焼いてやるから」
ジャムの次はホットケーキ。詠はいよいよ訳がわからない。普段の伊織はいつも険しい顔でガラスを吹き、後輩にもとても厳しい。黙っているか、ガラスを吹いているか、怒鳴っているかのどれかだ。
無論、それだけではないことも詠は知っている。ガラス工房を見学しにきた子供たちには優しく親切でもあるし、休憩時間には外に出て野良猫と戯れていることだって知っている。伊織が後輩に厳しいのは、油断をすると大怪我をしかねない現場だからで、それは優しさ他ならない。
寡黙で不器用で自分にも他人にも厳しい。そんな伊織が休日にジャム作りとは――。
「ねえ、伊織さん」
「っ、後ろに立つな。座ってろって言っただろうが」
背後に詠の気配を感じ、途端に伊織はそわそわと落ち着かなくなる。ジャムを作ることによって高めた集中力も、あっという間に砕け散る。自分が思うよりずっと、自分はこの年下の恋人が好きなのだと思い知らされる瞬間だった。
消えない気配に諦めて、火をとめる。ぷつぷつとした泡が、静かに順々に消えていく。どろりとした赤いジャムは、ただただ甘い匂いを撒き散らして、煮詰めきれなかったそれよりも、伊織の心は煮詰まっていた。
「……尾川」
「はい」
「俺とおまえ……付き合ってどれくらい経つ?」
「え、と……もうすぐ二ヶ月とか?」
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