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ジャムより煮詰めて
「……なんで……なにもしてこないんだ、テメェは」
伊織が緊張し落ち着かない理由はそこにあった。詠が部屋にやってくる。今日こそはなにかしらの発展があるかもしれないと、詠が部屋に遊びにくるたび、伊織は思っていた。しかし、いつも詠はなにもしてこない。空振りは今日を含めるとしたら、もう五回目だ。
「なん、でって……」
詠が言い淀む。ため息をつき、意を決して振り向いた伊織の視線の先には、きょとんとしたバカ面。7センチの身長差は、伊織からキスをするにはつま先をたてなければならない。
「そういうんじゃねぇのか?」
「ん? どういう意味?」
「だからっ、付き合ってても性的対象じゃねぇのかって」
「なに言って……え、伊織さん、そんなこと気にしてたの?」
途端ぱあっと目を輝かせる詠に、伊織は歯噛みし思いっきり詠の足を踏みつける。
「そんなことってなんだ? あ?」
「ふ、ははっ。伊織さん、かわいい……」
「っ、おい! 抱きつくな!」
すっぽりと詠の胸に囲われ、嬉しいやら腹が立つやらで、伊織の感情は乱れに乱れていく。自分よりも大きなものに包まれる安心感。それがじわじわと伊織の胸を締めあげ、甘いなにかを漂わせてくる。
「伊織さん、ジャムより甘い匂いがする」
そう言って少し身を屈めた詠の視線の先に、伊織の赤いくちびるが、食べられるのを今か今かと待っていた――。
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