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ghost12

 話を聞き終えた木村は、瀬田昭三という単語を繰り返す。 「それ、俺のじいちゃんだ」 「そうなのか?」 「ああ、そういえばじいちゃんは、すごい力を持っていたって」 「じゃあ、俺たちは」  目を見合わせて、きっと同じことを考えたはずだと思う。「瀬田のじいさんが引き合わせてくれたんだ」と。  しかし、自分たちの不思議な縁の話はさておき、問題はこれからどうするかだった。木村が祖父の力を引き継いでいるとしても、祖父が成し遂げられなかったかもしれないことが、果たして自分たちに出来るだろうか。  いいアイディアも出ずに二人で唸っていると、そこへ来客を告げるベルが鳴った。 「あら、あなたもあの子の友達かしら。素敵ね。あの子は二階よ」  母が黄色い声を上げながら、客人を招き入れる気配がした。芥川と顔を見合わせて、揃って首を傾げる。  すると、階段を上ってくる足音がして、ドアをノックされた。 「木村君、芥川君、僕だよ」 「羽山さん?」  驚いて扉を開けると、羽山が満面の笑顔で立っていた。中に招き入れて三人で向かい合って座ると、木村が尋ねる。 「どうしてここへ?」 「今日はただ遊びに来たわけじゃないんだ。君たちが面白いことをやろうとしているって、店長に聞いてね」  いかにも木村と芥川がお祭りでも始めるような調子で、羽山はわくわくとした表情で言ってくる。芥川は即座に顔をしかめて、羽山を追い払う仕草をした。 「面白いことって、俺たちは本気なんだ。ふざけるなら帰ってくれ」 「ごめん、そんなつもりはないんだ。ただ、僕には案があるから聞いてほしい」 「案?」   むっつりと腕を組む芥川を横目に、木村は身を乗り出した。 「正確には僕というよりも、店長が言ったんだけどね。うちの店には、代々受け継がれるものがあるんだ。僕が次の店長になる予定だから、それは僕にも多少はある」 「つまり、どういうことだ」  芥川は少しばかり興味を抱いた様子で先を促す。羽山はにやりと笑い、計画を口にした。 「当然ながら、レンタルゴーストは幽霊を呼び出す力が必要になる。つまり、それを受け継いでいる僕がラスボスを呼び出し、木村くんに祓ってもらうってことさ。芥川君にももちろん出番はある。危険だけど、囮になってほしい。確実にラスボスを出すためには、君の想いと引き寄せる霊力が必要なんだ」 「待って、でも俺は祓い方なんて分からない」 「大丈夫だ、その時になれば分かるとタクトが言っている」  芥川が空中に目をやり、何かを見ながら頷いた。その時とは何だよ、そんな根拠もなしにとは思ったが、誰もいないはずの空間に人の気配を感じた気がして、何故だか肩の力が抜けた。  芥川でも羽山でもない誰かに、ぽんと確かに肩を叩かれたからだ。  人がいない場所で、悪霊の封印という大層なことをやり遂げるのに最適な所、ということで神社に移動した。何でも、羽山の家系はこの神社に関係しているらしいのだが、全く驚かされてばかりだ。 「それでは、これより召喚します」  砂の中に立ち、そう声をかけると、羽山は玉砂利を広い集めてぐるりと縁を作った。どこから用意したのか、盛り塩も用意し出す。  今はまだ何も出来ない木村と芥川は、固唾を飲んで見守っていた。  羽山は人差し指を立てて唇に当てると、息を吐き出すようにしながら小さな声で何かを唱え始める。  そうしてしばらくすると、風が吹き始めた。三人の周りを囲むようにして、それは徐々に大きなものになっていく。ふと周囲を見回すと、周りの木々は全く揺れていない。風は明らかにここだけに吹いているようだ。 「芥川君、僕の正面に。決して石の輪に入ったらいけないよ」  羽山の指示に従い、芥川が羽山と輪を挟んで向かい合う。それを見た羽山は、芥川に言った。 「イメージして。輪の中から憎いあいつが出てくる。それを君が引っ張り出すんだ」  芥川が頷くと、羽山は再び何かを唱える。木村は芥川が心配になったので、その手を握った。緊張で汗ばんだ手のひらで、しっかりと木村を握り返しながら、芥川は目を閉じる。  途端に、少しずつだが何かが来ると感じた。とてつもなく恐ろしい、想像も絶するような。  霊感がないはずの木村にもそれが分かり、ぞくりと背筋を震わせる。その時だった。 「後ろだ!」   誰かの切羽詰まった声が上がる。慌てて振り返ると、真っ黒い何かがいた。人の姿をしていないそれは、血を滴らせながら手のようなものをこちらへ伸ばしてくる。  どうにかしなければならないと思い、咄嗟に芥川の手を離してしまった。その瞬間、その真っ黒い物体が笑ったような気がした。 「離してはいけない!彼が引きずられる!」  羽山が必死の形相で叫んだ。木村がはっとしてそれから視線を背けて芥川を見る。すると、無数の手が輪の中から伸びて、今にも芥川を奈落の底へ引きずり込もうとしていた。 「芥川!」  必死に手を伸ばすが、木村は空を掴んでしまう。もうだめだ、木村は絶望を感じながらも、自らも後を追うようにして穴の中へと身を投じかける。 「昴、芥川君を助けたいか」  暗闇の中で、温かい声がした。懐かしさを覚えながら、木村は返事をした。 「じいちゃん、俺は助けたい。ついでに、あんなやつやっつけて、芥川の両親も救い出したいんだ。あれ、でもじいちゃん、あいつにやられたんじゃないの」  純粋な疑問を口にすると、祖父はかかと笑って言い放つ。 「あんなやつに簡単にやられやしないよ、流石にわしでは力不足だと感じたから、最後に振り絞ってお前に譲った時に力尽きてしまったんじゃ。よし、それならじいちゃんが力を貸してやる。お前なら出来る。さあ、目を閉じて」 「うん」  言われた通りに目を閉じると、不思議な温かい力が体内にみなぎってきた。後はどうすればいいのか、何故か言われなくても分かるような気がした。  底へ底へと落ちていく中で、芥川が数多くの霊体に囚われているのが見えてくる。その中でも一番大きなあいつが、かぱりと大口を開けて芥川の魂を吸い取ろうとしている。  そこへ向かいながら、木村は矢を射るような姿勢を取り、意識を研ぎ澄ましてエネルギーを放った。  眩く輝いた光の粒子が降りしきり、流星群が霊体を浄化していくような情景だった。中でも一際明るい光が、木村を襲っていた悪霊を包み込むと、弾けるようにたくさんの魂を吐き出しながら消滅していく。  そんな中で、二つの魂が芥川と木村の元へ近付いてきて、礼を言うように周りを一周した。  芥川は涙を流し、それが消えていくのを見送っていた。

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