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プロローグ

 横尾はその日、幼なじみの美藤と近くのファミレスに食べに来ていた。時期は春休み、一つ年上の美藤は県外の遠い高校の寮に入ったため、横尾と美藤は久しぶりの再会だった。  美藤はあまり話さないので横尾ばかりが話すことになるが、それはいつもの事だった。美藤はとてつもなくきれいな顔をしているがいつも不機嫌なので怖いと言われることが多い。楽しげな内装のファミレスでとても浮いていて、横尾にはなんだかそれがおかしかった。  食べ終わった二人は外に出て、美藤の泊まる部屋に一緒に帰っていた。その途中で横尾は同級生とばったりあった。親しげに話しかけてきた同級生だったが、地元で名の知れた不良と一緒に歩いていたことに、話しかけてから気づいたらしい。あいさつもそこそこにその同級生と横尾は別れた。振り返ると美藤はひとりで先を歩いていた。 「ゆきちゃん、勝手にいくなよ」  歩幅が長いからか美藤は足が速く、走って横尾は美藤の横に並んだ。美藤はそこで振り返る。 「ついて来るな」 「やだよ」  美藤が横尾を拒絶するのはいつもの事なので、横尾はいつものように普通に断った。  いつもは、そこでこの話は流れる。美藤が暴力で横尾を突き放そうとすることもあったが、横尾もまったくおれないので、結局はいつも関係はかわらないままだ。 「お前、俺といて楽しいの。なんの意味もないのに。無駄に時間使って」 美藤がなにか語ることは珍しい。 「楽しいよ?」 「そんなわけないだろ。お前は、かわいそうな俺の世話やきをやめれないだけだ」 「急にどうした?」  美藤の様子がおかしくて横尾は美藤をよくよく観察する。それはいつもの癇癪のようだが、美藤がこの地をたって、一年がたつ。今年、横尾も高校生になるので、美藤にも思うところがあるのかもしれない。 「はやく、俺なんか捨てた方がいい」 美藤はそう述べた。  美藤はきれいな男だ。たとえバックがさびれたマンションとあやしげなシャッター街でも絵になる。そんな男が、捨てたほうがいいなんて、とても素敵なシーンだ。  それでも、その言葉に本当に珍しく横尾は怒った。横尾は普段から怒らない寛容な性格をしているが美藤には特に寛容だったのにだ。 「お前は、俺とどうしたいんだよ。俺といたいんじゃねぇのかよ」  出てきた声は、自分でも初めて聞く地を張ったものだった。  美藤は横尾がきれたことに驚いてはいるがなにも言わなかった。それにも横尾はいらだった。  横尾と美藤はもう十数年来の中だ。横尾は美藤の考えていることが手に取るようにわかった。しかし、美藤は横尾のことを何一つわかろうとしない。このままじゃ、自分たちはきっとどこかで別れてしまうだろう。  横尾は首から下げていた指輪を美藤に渡した。 「俺、高校、エスカレーターで上に上がらないことにした。俺を探してよ。高校まで迎えに来て。俺が必要なら、俺を奪ってよ。期限はお前が卒業するまで。期限が切れたら、もう終わりだ」  横尾は、前から取り掛かっていた賭けを実行した。

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