2 / 53

入学式 1

 春というのに、今日は少し肌寒い。今は入学式で講堂にはぎっしり人が入っているはずなのに、人の温かさでは暖をまかなえないようだ。  横尾仁志(よこお にし)は今年入学した天白高校の入学式に出席していた。この学校は創立100年をこえる名門の男子校。どんどん共学が増えるなかで男子校でやっていけることに、ここの人気が伺えるというものだ。偏差値はたかく、付属の大学もあるけど、外部入学で国立にいく人もとても多い。  一番前では、ナイスミドルな学園長がお話しをしている。御年六十と聞いていたけどもわかわかしくて話がおもしろい。こんな人里離れた僻地では、世間の偉い人の話は眠いという常識も通じないようだ。  学園長のお話が終わって、なにやら校歌が流れ出した。のど太い声が厳かな音楽にささやかながらのった。 「えっまじか」  この高校は下に中等部があるエスカレーター式だ。よって学園の歌ならみんな歌えるようだ。 「外部生?」  隣の男が横尾の方を伺った。声は聞こえにくく顔を寄せると男はさっきもらった冊子を横尾の前でひろげた。そこには、歌詞が載っていて、横尾は顔をさげてそのまま一緒に見せてもらった。  入学式は無事に終わったようだ。みんな一斉にばらける。教室でまた集まるらしい。 「ごめん。さっきありがとうな」 ばらける前に横尾は隣の男に声をかけた。 「いいえー。僕も高校からの外部生なんだ。新見美浪(にいみみなみ)、よろしくね」  にこにことかわいらしい愛嬌のある顔で新見は笑った。 「俺は、横尾仁志よろしく」 「急にあせるよね。暇だから冊子ながめててよかったよ」  新見は男にしては丸くおだやかに話した。よく見ると高校生というのがあやしい容貌をしている。身長は低いわけではないのに童顔でとても幼く見えた。  二人は並んで教室を目指す。 「外部生は各クラス5人くらいみたい。エスカレーターの人とも仲良くなれたらいいね」 「なれるだろ」 教室に入ると教室のクラスの奴らの目が全部がこっちに向いた。 「やっぱ無理かも。お互い仲良くしようぜ」 「そうだね」  新見はあははと乾いた声で笑った。  掲示板に座席表が張られていた。どうやら出席番号順なようで新見とは離れてしまった。彼は横尾の隣の列の一番前のようだ。横尾は窓側の後ろから二番目というなかなかの好物件だった。新見には悪いけど決まっているものはしかたない。窓の外は大きな運動場。そこは見事に林に囲まれていた。空が広く青い。 「外部生? 初めまして。おれ、依田北斗(よだほくと)。よろしく」

ともだちにシェアしよう!