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 初めて声をかけてくる奴があらわれた。暗い茶色の少し長めの髪だ。チャラくはないけど、頭は軽そうだ。 「あぁ、初めまして、横尾仁志だ」 「おれ、後ろの席なんだ。仲良くしてね」 「こちらこそ」  依田が愛想のよいかんじで手を差しだし、横尾をそれに応じた。 「外部生だよね?」 「それ、なんでわかんの?」  依田の後ろでほかの奴がこっちを気にしているのがわかる。 「まぁ、それはおいといて」 「置いとくなよ」 「ちょっと聞きたいんだけどさ?」  依田は横尾をみてにっこりとわらった。典型的な営業スマイルだ。そこから、誕生日は? 血液型は? 出身地は? と怒濤の質問攻めが始まった。  横尾はひっきりなしにくる質問にとりあえず答えていったがいい加減嫌になる。 「なんなんだよお前。男にそんなん聞いて楽しいか?」 「うん。横尾そこそこかっこいいからとっても楽しい」 依田は口の両端を上げてわらった。 「おまえは狐ににてる」 「よく言われる。テストむずかしかった?」 「ふつう」 「どこ中?」 「菊野」 「いやがっても答えてくれるヨコはやさしいね」 依田はいつの間にかあだ名みたいな感じでヨコと呼び始めた。なれなれしい。 「どーも」  ただ、横尾は横尾でめんどくさいので突っ込まなかった。  依田は質問しながらもスマートフォンを出した。カバーはしまうま柄だ。シートが張ってあるのか、画面は真っ黒でまったく見えない。 「私学だね。しかもエスカレーター。地元じゃ名門だったんじゃないの」 どうやら横尾の出身校を調べていたようだ。 「おまえマジでなんなんだ」 さすがに少し気持ち悪くなってきた横尾は少し強く言った。  依田はそれでひるむことはないけど、嫌味な笑いは消える。 「この学校はさ、お家事情が難しいやつとか腐るほどいるの。それで、事前情報とかがほしいやつがこれまた腐るほどいるの」 「どういうことだ」 「さっきの答え。この学校ではどいつが味方で敵かわからないから気をつけた方がいいよ」 依田はまた緩く笑って肩をすくめた。 「で、質問だけど」 「なに?」 ときくと、依田が目を二三度まばたかせた。あははと声にだして笑う。 「ヨコ、変わってるね。質問答えてくれるの?」 「俺、セレブリティだけど、つがないし。聞かれて困ることもないから」  横尾の家は祖父がそこそこの金持ちだけど、もう、ここに来たことで絶縁が決まってしまった。親はあきれて送り出してくれたけど、祖父の怒りは収まらない。しばらくはというか祖父が死ぬまでは帰れないだろう。一括でもらったお金は高校の学費をはらってもあまりあるもので困らないけど、手切れ金ということを横尾はわかっている。もともと、そんな豪勢な生活をしているわけでもなかったけど、先々のことをいろいろ考えると切り詰めなきゃなとか庶民的なことも考えていた。 「そっか、じゃあ、ヨコの平和な頭に免じて最後の質問。なんで、ここを受験したの?」  依田は頭をかたむけた。女がやるような仕草だけど、なぜか似合ってる。犬っぽさもあるのかもしらないなと、横尾は思った。

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