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第1話 家政夫デビュー

「えっと…ここだよな…」 ここは閑静な高級住宅街。 俺はスマホの地図アプリを見ながら、目の前にそびえ立つ高層マンションを見上げた。 俺の名前は相川環生(あいかわたまき)。 誕生日がきたら24歳になる。 大学を卒業して、とりあえず就職した食品メーカーに勤める、ごくごく普通のどこにでもいる営業マンだ。 勉強も運動もビジュアルも可もなく不可もなくと言ったところ。 特別何かに秀でてる訳でも、極端に何かができない訳でもない。 道ゆく人の誰もが振り返るようなオーラを放っている訳でもないから、せめて他人様を不愉快にさせないよう、清潔感を全面に押し出して生きている。 世の中の構成員の大多数、『普通』にジャンル分けされる人間その1だ。 そんな『THE 平凡』を絵に描いたような俺がどうしてこんな場所にいるかというと、それにはちょっとした事情がある。 それは一昨日の事。 一人暮らしをしているアパートのエアコンと冷蔵庫が一気に故障して、急にまとまったお金が必要になった。 薄給サラリーマンで、さほど貯金もない俺がすぐにそんな大金を用意できる訳もない。 でも、どちらも生活必需品だ。 もうすぐ暑い夏がやってくる。 仕方ないから、連休や前倒しの夏休み、出張の代休を総動員して、短期バイトをする事にした。 エアコンと冷蔵庫が使えないから、住み込みかつ、高給な仕事がいい。 そんな俺が偶然ネットで見つけたのは、男性限定の住み込み家政夫の仕事。 お金をもらえる程の家事力もないし、あまりに高給だから怪しさ満点だけど、背に腹は変えられない。 仕事を選んでる余裕なんてない。 そんな訳で俺は自分には不似合いなこのマンションにやってきた。 どんな人なんだろう…。 仕事は大変なのかな…。 緊張しながらエントランスのインターホンを鳴らす。 「はい」 若そうな男の人の優しい声。 よかった、怖い人ではなさそう。 「あのっ、俺…今日から家政夫でお世話になる相川です」 俺はドキドキしすぎて、名乗るだけで精いっぱいだった。

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