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第20話
次の日の朝の事。
俺は柊吾 の抱き枕になったまま朝を迎えた。
ちょっと窮屈だったけど、柊吾の温もりが心地よくて気がついたら朝だった。
目が覚めたらいつも通りの柊吾。
昨日の弱気な柊吾は夢だったのかな…。
そんな事を思いながら皆で仲良く朝ご飯を食べた。
麻斗 さんが『お風呂に入ろう』って言ったけど、洗濯物を干すから…!と、ベランダへ逃げた。
続きをしようって言われたら断り切れない気がしたから。
「環生 、今いいか」
洗濯物を干し終わると秀臣 さんが俺を呼んだ。
「はい、何ですか?」
「モデルとして、俺の創作意欲を高める手伝いをして欲しいんだ」
モ、モデル!?
素人で平凡な俺が!?
「む、無理です。モデルなんて///」
ここの家政夫、求められる事が高度すぎる…!
「環生にだから頼みたいんだ」
あまり自己主張しない秀臣さんの頼み事。
それだけ大切な事なのかも…。
俺に何ができるのかわからなかったけど、とりあえずやってみようと思った。
一緒に秀臣さんのアトリエを兼ねた自室へ。
ゆったりしたピアノ曲がかかっていて、柔らかなアロマの香りがした。
「すまない。そこで少し待っていてくれ」
示されたイスに座って作業をする秀臣さんを見つめた。
秀臣さんは30歳。
整った顔立ちのせいか、年齢よりも落ち着いて見える大人の男性。
口数も少ないし、表情もあまり変わらない控えめな人。
でも、兄弟の中で一番の甘党だったり、俺が見つめると照れたりして可愛い一面もある。
そんな彼は、デザイナーモードのスイッチが入ると別人のようだった。
自分の世界観を追い求める真っ直ぐな眼差し、情熱、集中力…。
そのギャップに胸がときめいた。
魅力的な秀臣さんをもっと見たい。
俺にできる事を精いっぱいやろう。
そう思った。
「環生、ここへ」
「はい、秀臣さん」
ドキドキしながらアトリエの真ん中へ。
秀臣さんは立ったまま、真剣な表情で俺を見つめている。
「そこで着ている物を全部脱いでくれないか」
「えっ…?」
全部って…パンツも!?
「視線はこっちだ」
ただ脱ぐだけでなく、秀臣さんを見つめながら…っていうオプション付きで。
昨日、麻斗さんに裸は見せたけど、誰かに脱ぐところを見せるのは初めて。
どうしよう、秀臣さんが豹変して、このままエッチな事をする流れになったら…。
麻斗さんとお風呂に入った時もそうだったけど、まだ心の準備ができていなくて戸惑った。
困り顔でグズグズしている俺を見た秀臣さんは申し訳なさそうな顔をした。
「やはりやめよう。環生なら俺のイメージを具現化できると思って無理を言ってしまった。すまない」
「あ、謝らないでください。俺がやるって言ったのにすぐに脱がないのが悪いんです」
申し訳なさそうな秀臣さんに、俺の方が恐縮してしまった。
「いきなり過ぎたな。環生はまだここに来て数日だ。俺がどんな男かもわからないのに密室でそんな事を言われたら怖いだろう」
俺の事を考えてくれる優しい秀臣さん。
秀臣さんは俺の雇い主だから、ただ指示すれば済む話なのに。
怖いって思うのは、秀臣さんを知らないから。
俺が秀臣さんを知ればいいだけの事。
最初は麻斗さんや柊吾も知らない人だった。
でも、実際に触れ合ってどんな人なのかが少しわかった。
「秀臣さん、俺を抱きしめてください」
こんな事を言うから柊吾に誤解されるのかも知れない。
でも、いくら仕事でも触れ合った事もない人の前で裸になるのは嫌だった。
だってもしかしたら、このままセックスをする事になるかも知れない。
「環生…」
「俺を抱きしめて、秀臣さんがどんな人か教えてください」
少しでもいいから、秀臣さんとの距離を縮めてから脱ぎたかった。
義務的にではなく、少しでも体温を感じてからにしたかった。
「いいのか」
「はい…。秀臣さんが嫌でなかったら」
緊張した様子の秀臣さんは遠慮がちに俺を抱きしめた。
麻斗さんや柊吾とはまた違った官能的なトワレの香り。
でも、3人の温もりにはどこか共通した懐かしさがあると思った。
俺の背中に触れる大きなぎこちない手の温もり。
あぁ、きっと大丈夫。
秀臣さんは酷い事はしない…。
俺は全てを秀臣さんに委ねようと思った。
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