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恋した夜の過ごし方1

  壁いっぱいに貼られているのは僕の写真だった。  「 あの、これ?」  半分以上は明らかに盗撮で、僕は頭を抱える。  うわぁ。  「一緒に住めないからな、代わりだ」  当然のようにあの人は言う。  「ええと」  僕はどう言えば良いのかわからない。  僕はこの人以外と、お付き合いしたことがない。  この人とも付き合っているのかは色々悩むところで、僕は正直良くわからない。  僕にはわからないことが多すぎるのだが、少なくともこの壁いっぱいに貼られている僕の写真は「何か違う」ということだけは分かる。  この人の家に来たのは初めてだった。  いつもデートの最後はホテルだったから。  なんとなく、  「どこに住んでるんですか」  と言うと連れて来てくれた。  「何にもないんですね」  「オフィスは別にあるし、寝るだけだからな」  連れてこなかった理由は多分、ホテルの方がまだ生活感があるという位何もないからだろう。  ベッドとクローゼットだけ、テーブルさえなかった。  寒々としていた。  そこに壁いっぱいの僕の写真だ。  この部屋があの人の心象風景だとしたならば、言えることは一つだ。  狂っている。  でも、この人はなんとも思っていないらしい。   「ご家族は?」  僕は この際なので色々尋ねてみることにした。   「心を病んでいたガンで死んだ父親と、ワーカーホリックの精神科医の母親。そしてお前も知ってる腹違いの姉だけだ。生きてるのは母親だけだな。仲は悪くない」  精神科医のお母さん。  息子さんは色々大変なような気がします。  座るところかないので、二人でベッドに腰掛ける。  押し倒されるものかと思っていたのだけど、あの人は大人しく僕を見つめていた。    綺麗な顔だ。  この人は僕の姉様の弟で。  説明すればややこしいのだけど、僕の姉以上に姉だった人の弟で、とてもその人に似ていた。  だからかな、最後は許してしまうのは。  最初の出会いが拉致監禁からだったし、教授や  さんから言わせると僕とあの人のこの関係は「普通は有り得ない」のだそうだ。  「俺とするの嫌か?」  あの人が囁く。   僕の髪に触れようと指をのばしかけ、やめる。  「嫌とかそういうのでは」  僕は赤くなりながら言う。  この人とするのは、気持ちいい。  それは間違いないことで。  「何したらお前、喜んでくれるんだ?何が欲しい?俺はどうすれは、お前に好きになって貰えるんだ?」  あの人の目が僕を映す。  僕に触れたいのに、耐えているのがわかる。  いつもこの人は捨て身で真っ直ぐに僕に向かう。  それに、僕は困ってしまう。  「嫌いじゃないです」   僕はそう言うしかない。  「知ってる、でもそう言うのじゃないんだ」  あの人が切なそうで、僕は「好きですよ」って言ってあげたくなる。  でも、僕には分からないんだ、本当に分からないんだ。  「お前を抱きたい。一日中抱きたい、ずっと突っ込んで、泣かせたい。でも、お前が嫌なら指一本触れない」  あの人は苦しそうに呻く。  本気だ。   この人は嘘は言わない。  この人は僕の為なら何でもくれるだろう。  左腕をくれた。  多分命だってくれる。  嫌じゃない。  嫌ではない。  僕は顔を赤らめる。  「嫌 、じゃない」  僕は小さな声で囁く。  あの人はもう、目だけで僕を抱いている。  そんな風に見つめられたら、僕の奥でこの人が教え込んだ快楽に火がともる。   「そうか」  ふっ、あの人が笑って。  あの人の右腕が僕を抱き寄せた。    そこからはもう、やられ放題で、結局いつものように僕は後悔することになった。    

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