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恋した夜の過ごし方6
私は彼に説明する。
「遊女達は年季があけるまで生きることも難しかったたろうね。彼女達の寿命はまだ研究されていないけれども、かなり低かったのではないかと思うよ。当時の梅毒の感染者は驚く程だったし 。年季があけても、どこにも行くところもなく、やれることもなく、結局違う場所で身体を売っていた者も多かったしね」
生き地獄。
梅毒の感染の痛みから一時的に回復した遊女は高値で取引された。
治ったわけではなく、潜伏しただけなのだが、こうなるともう病気にかからず、妊娠しないと。
そしてどんどん感染者は増えていく。
病気が進み、鼻がもげ、痛みに泣き叫ぶ遊女は死ぬまで布団部屋に閉じ込められ、ろくに看病などされず、狂いながら亡くなった。死ねば寺に投げ込まれた。
そんな現実の中で、恋を心の支えとする遊女達がいてもおかしくはない。
「真剣に好き合っていると思っても、本当に年季があけるまで待っていてくれる男も、実際年季があけて一緒になっても、遊女でなくなった女に夢中になれる男も実際にはそんなにはいなかっただろうから、恋の成就は難しかっただろうね。だから心中は完璧な恋の成就だった」
しかも封建的な時代だ。
生まれ落ちた時から人生はほぼ決まっていた。
身分も出来る仕事も。
「仏教思想もあったからね、死後の魂を信じていたし。恋する男女が、恋の為に死ぬのは、自分の想いを貫き通すことで 、自分の想いを達成することだったんだろうね。それは自分の意志を生きることだったんだろうね」
でも、私ならば生きて恋の成就がしたい。
私だって恋の地獄は見た。
相手を変え次々とだれかと身体を重ねて行く彼を見ていた。
あれは地獄だった。
でも、待っていた。
自分の立場や、彼の尊敬や敬意を利用して、彼の気持ちを動かしたりしないですむようになるまで。
もうすぐだ。
「愛しい人を手に入れる方法がそれしかないなられを選んでしまうのが恋なのかもしれないし、そういう意味では確かに死の魅力にとりつかれているともいえるね」
私は手に入れるために相手を殺したりはしない。 相手を手に入れられないとしても。
私は彼をみつめる。
それは必要以上だったかもしれない。
彼がとまどったように目をそらす。
でも、私もこの恋をあきらめたりはしない。
私は君を抱きしめる。
最後には。
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