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第一夜
『バッシーーンっ!』
騒然となった。
そこは中古自動車の買取と販売を両方兼ねる中古自動車売買ショップ「BSC」の星ノ空支店。
星ノ空支店の店長を任される夏凪眞央 (30)はその場で立ち尽くした。
「何とか言いなさいよっ!」
眞央に向かって女が喚く。
眞央はたった今、歳の頃なら同じころの見ず知らずの女に頰にいきなり平手打ちを食らわされたのだ。
「あの、お客様。
落ち着いて・・・」と、営業マンのひとりが慌てて駆け寄り、女をなだめようとした。
「客じゃないわよ!」と、女は怒鳴りつけると、仲裁に来た営業マンを追い払う。
「みなさんーっ!」と、ショップ内にいる商談中の客や店員に向かって大声で呼びかけた。
女は眞央を指さすと、
「ここにいる、この男に、私は旦那を寝取られましたーっ!」と、ショップの隅まで届くような大声で叫んだ。
「!」
店内は皆、絶句する。
「なんとか言いなさいよっ!
アンタ、うちの家庭を壊しておいて、自分だけ平々凡々と暮らしていけるとでも思ってたの!」
下を向く眞央。
「これでアンタの人生もぶっ壊してやったわっ!」
捨てゼリフのようにそう言うと、女はスッキリした顔をしてショップから出て行った。
女が出て行った後、眞央は周囲からの痛い視線が突き刺さるのを感じる。
「・・・みなさん、お騒がしてすみませんでした」
眞央は、そう言って深く頭を下げた。
近くの従業員を捕まえると、
「すまないが、少し休憩をもらうな」
そう言って、眞央はショップの裏口から外に出た。
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