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眞央が東京出張を終え、一週間ぶりに『BSC』星ノ空支店に出勤してくる日がやってきた。 倫平は誰よりも早く出社して、眞央が来るのをデスクで待ち伏せしていた。 眞央は通常よりも早く出社してくる習慣がある。 倫平はそれを狙った。 眞央が来たら、連絡がなくてどれだけ心配していたか、この腹正しさを文句に全て変えて、心の底から思いっきり浴びせてやると心に決めていた。 そして、それの埋め合わせとして、また眞央の休日を全部、自分の独占状態にしてやると秘かに誓った。 裏口が開いた。 「!」 「おはようございまーす」と、事務の女子社員が入ってくる。 「あれ、京和さん、今日はめちゃくちゃ早い出社じゃないですか?」 「ああ」 「おはようございます」と、続いて、営業職の多田が入ってくる。 「おはよう」と、力なく返す倫平。 倫平の思惑がうまく運べる状況ではなくなってしまった。 ※ ※ 結局、眞央は珍しく営業開始時間がギリギリに迫ったところで出社してきた。 「おはよう」 そう言って、眞央がショップに姿を現した。 「!」 一度も連絡をよこさず、どれだけ心配していたか。 その思いを文句に変えて、目一杯に浴びせてやると心底腹を立てていたはずなのに、眞央の元気な姿を見た途端、倫平はそんな気持ちはどうでも良くなった。 それよりも、眞央の姿を見れたことが嬉しくてたまらなかった。 周りの目がなかったら、眞央との交わした《職場では部下と上司の立場を守る》約束がなければ、眞央を今すぐ抱きしめたいという思いに駆られていた。 倫平は笑顔で口にした。 「おはようございますっ!」 「おはよう」 眞央は素っ気なくあいさつを返し、倫平の顔を一切見ることなく素通りしていった。 「えっ・・・」 倫平はなぜかとてつもないショックを受けた。 まるで、自分の存在を無視したかのように眞央が通り過ぎて行った。 倫平は眞央の豹変を感じ取り始めた。

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