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木下に交代させて東京出張に来た眞央は、ぼんやりとしながら、東京の本社で開催されている講習会に耳を傾けていた。 講習会には全国の支店からの代表者が定期的に集められ、最新の中古自動車の人気車種の動向は勿論のこと、これから人気が出そうな車種についての情報や客から実際にあったクレームの実例対応、最新の中古車詐欺被害などの講座が行われている。 眞央は倫平への思いを断ち切る為に、木下に出張を交代させた。 一週間ほど距離をおいたところで倫平への思いを断ち切れるわけはないと分かっているが、倫平のことを愛おしいと思ってしまっている以上、あのまま顔を合わせていると、自分の誓いが鈍りそうな気がしてこうするしか方法が思いつかなかった。 倫平から、スマホのチャット型のコミニュケーションアプリに何通もメッセージが送られてきているのは分かっている。 自分の身に何か悪いことが起こったのではないか?と、倫平がずっと心配してくれているのも分かっている。 けど、眞央はそれらを全部無視することにした。 無視することでしか、自分の思いを止めるすべが分からなかったからだ。 眞央は独りになって改めて思った。 もっと簡単に倫平への思いは終わらせられると思っていた。 恋をしないと立てた誓いはもっと簡単に遂行できると思っていた。 メッセージや着信がある度に、倫平にまた触れたいとこんなに思うなんて思いもしなかった。 それほど自分は倫平に惹かれていたのか、と。 本社での講習会が終わると、支店の代表者たちとの意見交流会という名の食事会に参加した。 それが終わり、宿泊に利用しているビジネスホテルに向かって歩いている頃には夜の8時を回ろうとしていた。 華やぐ大都市の交通量の多い道路横の歩道を歩いていると、目の前に見覚えのある男が女と腕を組みながら歩いて過ぎ去っていく。 「!」 眞央はすぐに分かった。 少しふっくらしているが、大学生時代に付き合っていた、ずっと忘れられずにいた元カレだ。 元カレは女と親密そうに腕を組みながら、時折、笑顔を零している。 眞央はその姿をじっと目で追ってしまった。 元カレがタクシーを止めるのに左手をあげた。 あげた左手の薬指に輝く指輪が眞央の目に入る。 「!」 眞央は全てを察した。 腕を組んでいる女性がその指輪のパートナーなんだと。 眞央に虚しさが一気に襲い掛かった。 どうして、あの隣にいるパートナーは自分じゃいけなかったのか。 全ては自分がゲイとして生まれてきたばっかりに。 やっぱり、自分は恋などしてはいけない。 今のあの元カレの姿は倫平のいずれの姿だ。 決して、自分はあのように隣で腕を組める存在には永遠になれない。 誓いを立てたことはやはり正しい。 守るしかない。 「二度と恋はしない」 眞央は元カレの現在の姿を目撃して、それは何かのお告げのような気がした。 その時、眞央のスマホから着信音が聞こえた。 相手は今日、何度もしつこく電話を寄こしてくる倫平だ。 眞央は勿論、その呼び出しも無視した。 眞央はこれでやっと倫平を断ち切る本当の覚悟が出来た気がした。

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