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昼休憩の間、倫平はショップの裏側にある喫煙所でタバコを永遠と吹かしいた。 《店長、来ねぇじゃん・・・。 いつもなら、この時間、ここに来てるじゃん・・・》 「俺、なんかしたのかな・・・?」 倫平は何も思い当たる節がなく困り果てたように呟いた。 《これ、俺のこと避けてるよな・・・? 間違いなく避けてるよな・・・? 返信は来ないし、電話しても留守電に繋げるし、そもそも俺の目を全く見てくれない・・・》 「眞央って呼ばれたくなかったのかな・・・それとも・・・やっぱりキスはしたくなかった・・・とか? 俺、口臭は心配ないと思うんだけどな・・・タバコのせいかな・・・?」などとボヤキながら、口元に手のひらの壁を作り、そこに向かって、息を何度も吐いて口臭を確かめたりした。 ※ ※ 結局、昼休憩の間、眞央が喫煙所に姿を現すことは一度もなかった。 昼休憩が間もなく終わろうとしているので、倫平が肩を落として喫煙所からショップに戻ってきた。 それを見かけた事務の女子社員が、 「京和さんもいい加減禁煙したらどうですか? 京和さんだけですよ、ウチのショップでタバコ吸ってるの。 もう喫煙なんて時代遅れですよ」と、嫌煙家の嫌味を込めて口にする。 「あれー、知らないの? 最近、店長も吸いだしたんだよ」 「そっちこそ、いつの話してるんですか?」 「へ?」 「店長ならもうタバコは止められたみたいですよ」 「嘘?!」 「さっき止めたって言ってましたよ」 「・・・・・」 「これ、女の勘なんですけど、絶対良い人が出来たんだと思います」 「なにそれ?」 「ウーン、よりを戻したとか?」 「より?」 「不倫相手とですよ。 あの怒鳴り込んできた奥さんとキッパリ別れて、店長を選んだんじゃないですか?」 「・・・・・」 「多分、言われたんですよ。 『オレの為に、また禁煙して欲しい』って」 「・・・・・」 「禁煙→喫煙→禁煙。 短期間でこんなサイクルしちゃうのは大切な相手が原因としか考えられないですよ」 「・・・・・」 倫平はその女子社員の言葉に対し思い当たる節を浮かべた。 確かに眞央は以前、喫煙所で話した時にこんな言葉を口にしている。 《オレは好きになったら染まりたいタイプだから》 眞央が以前に口にしたその言葉を思い出すと、倫平の心に小さな焦りのようなものが湧き始めた。

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