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半年後―。 『BSC』星ノ空支店の喫煙所で昼休憩を取る倫平の姿があった。 倫平はタバコを吹かしながら、大きくため息をつくと、 「やる気でねえ・・・」と、呟いた。 《木下さんの下じゃ、全然やる気が出ないよ~。 そもそも木下さんに褒められたところで何にも嬉しくないもんな~》 眞央が『BSC』星ノ空支店を辞めて二か月が経過し、星ノ空支店は副店長だった木下が急遽、店長へと昇格する形となった。 《俺、自分が自覚するずっと前から眞央に思いを寄せてたんだな。 眞央がこの店から居なくなって初めて分かった。 眞央に常に注目してもらいたくて、眞央に褒められたくて、仕事を頑張ってたんだな》 そんな倫平の心の声が通じたのか、倫平のスマホが眞央からの着信を知らせる。 「もしもし」と、すぐに通話に出る倫平。 「今、昼休憩中? 話しても大丈夫か?」 「うん。 どうしたの? てか、そっちは、今日プレオープンで忙しいはずしょう?」 眞央は、『BSC』のライバル会社『U&Dカーズ』が隣の市に新たにオープンさせた中古自動車売買店の支店長として、今月から働き始めていた。 「今、こっちも昼休憩に入ったとこ。 午後からは反省会と言う名の会議かな」 「早速、仕事でなにかあった?」 「いや、そうじゃないんだけど・・・」と、口ごもる眞央。 「何?」 「いや、昨日言ってたこと、本気なのかなーと思って」 「本気だよ。 一緒に暮らそうよ」 「・・・・・」 「イヤなの?」 「そうじゃないよ。 だったら、俺・・・新居購入も視野に入れようかなって」 「えっ、眞央、急にいつからそんな大金持ちになったの?! いくらで引き抜かれたの? それとも宝くじが当たったとか?!」 「違うよ、何十年とローン組んでだよっ。 倫平は知らないと思うけど、男同士で物件の良いところを借りるって中々厳しいもんがあるんだよ」 「そうなんだ・・・」 「で、新居は絶対禁煙だからな」 「えッ!?」 「倫平、今、タバコ吸ってるだろう?」 「・・・うん」 「それ、最後の一本な」 「酷いっ! てか、それを言うために昼休憩を狙って、わざわざ電話かけてきたでしょ!」 「だって、お前が言ったんだよ? 気が済むまで自分を試して良いって」 「えっ、俺の熱い思いはまだ信じてもらえてないの・・・?」 「さあ、どうだろうな~。 倫平クンが本当にオレと一緒に暮らしたいと思ってるなら、タバコぐらい簡単に止めてくれると思うんだけどな~」 「酷い・・・俺の気持ち完全に分かって試してるじゃんっ、その言いかたっ!」 眞央の嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。 「・・・・・(なんで、また、俺の気持ちをわざわざ確かめるような真似してくるかな・・・?)」 「・・・倫平」 「ン?」 「一緒に暮らしたら、放してって言われても、倫平のことを放してやれなくなるかも」 「・・・・・」 「それでも良いのか?」 「じゃあ、本当に今日でタバコ止めなきゃね」 「・・・・・」 「禁煙成功のご褒美は高級寝具のダブルベッドね」 「ええっ!?」 「めっちゃ高いから」 「マジで!?」 「普通に上級クラスの中古車が買えるぐらいだから、覚悟してね」 「嘘だろう!?」 「だから、午後からは、そんなこと気にしないで、いっぱい頑張って仕事してよ」 「・・・分かった。 こんなオレをいつもあっさり受け止めてくれてありがとうな」 「何それ?」と、笑う倫平。 「倫平も午後からの仕事を頑張れよ」 「はーい」 倫平がダルそうにそう返事を返し、通話を終えた。 通話を終えると、倫平は吹かしていたタバコの火をすぐに灰皿でもみ消した。 まさか、自分が自分以外の誰かの為に禁煙したいと思う日が来るなんて・・・と、自分自身の変化に驚きながらも、眞央との未来にこれからどんな嬉しい驚きが待っているのか、それが楽しみで仕方ない倫平だった―。 (END)

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