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「・・・倫平」 「ン?」 呼びかけと共に、眞央は鏡越しに倫平の目を真っ直ぐ見つめた。 倫平も鏡越しに見つめ返す。 「オレ、U&Dカーズに行こうと思う」 「・・・分かった」 「えっ、理由を聞かないのか?!」 「なんで?」 「だって、ほらっ・・・もっと、こういう場面ってさ・・・その、お互い込み上げてくるものを言い合ってさ・・・」 「ん??? 眞央はオレに行って欲しくないって言って欲しいってこと?」 「違うよっ。 違うんだけどさ、こう・・・」 眞央は過去の経験から、お互いを深く傷つけ合う事になる場面を勝手に想像していた。 「だって、眞央の目を見てたら大体分かるもん。 何年、部下やってると思ってんの?」 そう言うと、倫平は体をまた眞央の背中に密着させた。 「その目は未来を見据えて決断してる時の目だよ。 本社に課せられた売り上げを達成できるかどうかの瀬戸際の緊急会議でよくやってる目。 売り上げを達成させる為のキャンペーンを企画して決行する時の目とそっくり」 「・・・・・」 「眞央は俺達の、先を見据えて決断したんだろう?」 「・・・・・」 「眞央が俺達の先のことを考えて決断してくれたってことが、俺はすごく嬉しいんだから、反対するわけないじゃん」 「・・・・・」 《昔の俺が同じ立場ならめちゃくちゃごねてる。 なんで、離れる必要があるのか? 離れる意味が分からないって怒りだしてるところだ・・・》 眞央はなぜか安心した。 倫平とならこの先もうまくやっていけそうな予感を感じたからだ。 倫平と自分は似てるようで違う。 倫平なら自分の弱さまでもちゃんと受け止めてくれそうな気がする。 そんな予感が眞央の胸に広がった。 なぜか、倫平を愛することを怖がらなくても大丈夫なんじゃないかという気がした。 「オレ、お前のことを見誤ってるのかも」と、眞央。 「なに? まさか、今ので俺のことをめちゃくちゃ良い男じゃんって再確認した?」 「いや、よくチンコ勃たせながら、そんな歯の浮くようなセリフが言えるな~って」 「もうーっ、チンコを勃たせてるから言えるんでしょうが~。 その先を期待してるから。 ・・・早くベッドに戻ろう」 「ダメだよ、今日も仕事があるんだから」 「いいじゃん、今日は店長権限で臨時休業にすれば!」 「だから、それな、俺が移ろうと思う理由っ!」と、眞央はそう言葉にすると、笑った。

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