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第1話
「お前は誰が良い?」
それは学生時代に同級生が言っていた戯れの言葉だった。
大門毅(おおかどつよし)が通うのは男子校ということもあり、彼の周りも本気か、冗談かは定かではないが、学校の中でなら誰とつきあうか。
そんな話も大して珍しくもなかった。
「俺はF組の……」
その戯れの言葉が飛び交う会話は大門を置き去りにして、進んでいく。挙がっている名前には確かにそこら辺の女子よりも可愛らしい顔立ちをしている者、見るからにいかにも男らしく、精悍な顔立ちをしている者。または、顔が際立って良いという訳ではないが、一緒にいて面白く、自分と相性が合う者と様々だった。
「なぁ、大門は?」
そんな風に大門へと話を振ってきったのは広部聡(ひろべさとる)だった。容姿は大門と比べると、やや背が低いが、十分に長身であると言える。
また、顔立ちや性格なんかも柔らかで、人好きのする男だと大門自身も思っていた。
「俺にはそんなヤツは……」
大門はまさか自分が振られるとは思っていなくて、出てきた言葉は歯切れの悪いものになってしまう。
すると、その時だった。大門達の目の前をまるでフェルメールの作品の中の女性が身に纏っているような、淡い、青い色のカーディガンを着た男が歩いてくる。
「あ、俺は高屋(たかや)さんなんかも良いかな?」
大門達の目を惹いていた、淡い、青い色が既にA組のある方へと去ってしまってから同級生の1人が調子の良い感じで口にする。
「分かる、分かる。儚げだし、美人なんだけど、美人だけじゃない色気があって」
「そうそう、あとは1つ上なのに、謙虚と言うのかな。俺らみたいの相手でも、丁寧だし、『キヒン』って言うの? そういうのもあるし」
「うんうん。そんで、もし、いじめられていたりしたら、守ってあげたいってちょっと思うっていうか」
年が1つ上の同級生で、いわゆる、ダブリ……しかも、彼の謙虚さや丁寧さ、気品のある様などは間違ってしまえば、お高くまとって、と男子校ではいじめの対象になりそうなものだが、この高屋光貴(こうき)という人間はそういった目で見られることは殆どなかった。
というのも、1つには話にもあったが、「もし、仮にいじめられていたら、守ってあげたい」と思わせるような雰囲気が高屋にはあり、庇護欲のようなものが彼らの中に湧き上がるのだろう。
それに、高屋の持ち合わせたルックスや性格の他にも理由があった。
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