2 / 14
第2話
「高屋さん……心臓が悪いんだよな」
「らしいな。何でも、今年に手術するとか、しないとか」
と広部が神妙な口振りで答えたところで、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴る。
次の授業は他のクラスの生徒がいたり、席に着いていなかったりすると、ぐちぐちと嫌味を言う日本史教師の古川(ふるかわ)だった。
「じゃあ、また放課後な」
広部のクラスは隣のF組で、日によってはこのE組や先程、話にも挙がった高屋もいるA組までを渡り歩いていた。
そんな渡り鳥のようなヤツだが、大門はそんなところにも彼の顔の広さを見て、感心していた。
「今日は珍しいな。全員、座っているようだし、他のクラスの生徒もいないじゃないか」
日本史の教科書や図説を数冊か、持ち、古川が大門達の教室を見回しながら入ってきた。その日の日直である生徒が号令をかけると、クラスの生徒は起立や礼をする。教師である古川に対し、お願いします、と声を揃えた。
勿論、大門もそれに逆らうことはなかった。
「なぁ、大門は?」
大門の頭には先程まで話のネタになっていた広部の言葉が響いてくる。
「はい、お願いします」
日本史の教科書を教卓へと置き、古川も頭を軽く下げる。
冴えない紺色のネクタイに熊がワイシャツを着ているような古川を見ながら、大門はあのフェルメールの絵画から抜け出してきたようなカーディガンを着ている高屋の儚げで美しい微笑みを思い出していた。
時効
もし、恋愛に時効が存在するのなら、それは何年なのだろう。
ともだちにシェアしよう!