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第14話

『時効  もし、恋愛に時効が存在するのなら、それは何年なのだろう』  と、広部のパソコンの画面には表示されていた。  広部はパソコンが持ち込めそうな駅前のカフェの一席に腰を落ち着けると、まだ温かさのあるカフェラテを口に運ぶ。すると、待ち合わせの人物がほうじ茶ラテの入ったカップとトレーを持って、現れた。  まるでフェルメールの作品の中の女性が着ているような、淡い、青い色のジレが揺れる。 「お疲れ様です、広部君」  高屋は広部のパソコンに注意を払いながら、トレーを机の上に乗せる。 「あ、場所とってて、すみません。すぐに片づけますね」  広部は急いで、パソコンの電源を落とすと、自らが座っているソファの上に乗せていたバッグにパソコンとマウスを仕舞う。 「ごめんね。仕事の途中だったんでしょう」 「いえ、どうせ、大して進んでいなかったんですよ」  広部はチョコチップを塗したカップケーキを一口齧ると、残っていたカフェラテを飲み干した。 「それよりも、大門と上手くいったみたいですね」  おめでとうございます、と広部は笑うと、高屋はありがとう、と少し陰りのある笑顔で返す。 「でも、君もずっと大門君が好きだったんでしょ。それなのに、わざわざ、僕と大門君の仲を取り持つなんて……」 「ええ、でも、俺は大門よりも仕事が好きなんですよ。ありふれた言い方をすると、俺の恋人は仕事ってヤツです」  広部は後ろ暗さもなく、爽やかに言うと、もう一口カップケーキを齧る。 「そう……」 「あ、でも、大門の恋人にはなれないけど、大事な友人兼モデルなんでね。傷つけるようなことをしないでくだされば……ああ見えて、繊細なところもあるんです。あいつ」 「ふふ、君も読めない人だね。そんなに彼を知っているのに」 「まぁ、知ってるというか、もはや病気ですね。強そうに見えるヤツの弱さ、それをどうしても、見てしまう」  穏やかに笑う高屋に、爽やかに笑う広部は暫く話すと、30分程でカフェを後にした。 「じゃあ、また」 「うん。落ち着いたら、3人で食事にでも行こうね」  広部は了解とばかりに後ろ手にひらひらと手を振ると、高屋も広部に背を向けて、反対方向へ歩き出す。 天井のガラス張りの屋根から覗く初夏の空というよりは冬の晴天を思わせるような淡い、青い色のジレをひらひらと揺らしながら……。

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