今でも鮮やかに思い出せる。 人生を一からやり直すつもりで入学した、大学の中のカフェ。 生徒達の賑やかな話し声が響く高い天井。 地元から遠く離れた大学を選んだのに、どこから流れてきたのか噂は呪いのように大滝春（はる）の身体に染み付いたままだった。 ｢合コン？｣ ｢そう、大滝くんもおいでよ｣ バイトがあるから。と断ろうとした春の言葉は、そばに居た別の女性に遮られた。 ｢ダメだって、大滝くんは、ほら｣ ｢あっ、そっか｣ ｢え〜いいじゃない。だって大滝くん綺麗だもん。いてくれたらお酒も美味しくなるよ！｣ 春の前には五人程の女生徒達がいたが、全員が個性の強いフレグランスを使っていたようで、鼻が曲がりそうだった。 (だから嫌いなんだ。女なんて) 顔見知りもいないと思って受けた大学だったのに、春にまつわる噂を知っている人間がいたようで、自分の知らぬところで伝わっているようだった。 ｢悪いけど。俺、バイトもあるし。合コンとか興味ないから｣ 鞄を掴んで腰をあげようとした所に、突然肩を抱かれて椅子に戻された。 ｢なぁ、あんただよな？大滝春って｣ 密着してきたのは男だった。不躾な話し方と触れ方に腹が立ち、思い切り押し退けて立ち上がったが、カフェを出ていく春の後をついてきた。 ｢なぁって。話ぐらい聞けよ｣ ｢なんなんだよ。そんなにゲイが珍しいのかよ｣ 足を止めて振り向くと、太陽の強い陽射しに負けぬほどの光を見せた瞳があった。 ｢珍しいから声掛けたんだろ。俺、新村白澄（きよと）ゲイセックスってしてみてぇんだけど。ヤらしてくれる？｣ 目眩がする程の怒りを感じたのは、この時が初めてだった。 元々気は長い方ではないが、怒りのあまりその後どう殴りかかったのか、そこだけは記憶にない。 ｢記憶にないって言ってもさ。俺の腫れた顔見りゃ大体分かるだろうよ｣ ｢初対面であんな事話して、顔だけで済んだんならラッキーじゃん｣ 春は下半身に残ったローションをティッシュで雑に拭うと、先にあるゴミ箱に投げた。 それはゴミ箱の口に当たり、床に落ちてしまった。 ｢それでもあれがなけりゃ、今がないだろ？｣ 全裸で立ち上がると、ティッシュを拾いゴミ箱に入れた。 振り向いた先には、乱れたベットに寝転んで煙草を吸う白澄がいる。 少し長めの黒い髪は、抱かれている間にわざと乱してやった。 普段は時間をかけて髪を上げている白澄だが、春は下ろしている方が好きだ。 目元にかかるその髪の隙間から、欲情した獰猛な瞳が見えるのが好きだった。 ｢...今って。昔も今もなにも変わらないだろ｣ 浴室に入り、熱いシャワーを頭から被っている間、目を閉じて感覚をなぞった。 分厚い手が撫でた脇腹。乳首に吸い付いた熱い舌。春の身体を溶かしてしまう昂りは、今日も長く体内に留まってくれた。 感覚を辿るように指先を滑らせていると、白澄が入ってきた。 ｢なんだよ、もう少し待てって｣ ｢いや、お前がなんかエロい洗い方してるから｣ 安いラブホテルは浴室がガラス張りで、ベッドから丸見えだ。 ｢え、エロい洗い方とかしてない...っ｣ ｢自分で乳首摘んでたろ？もう一回やって見せろよ｣ ｢してないって言って...。白澄、今出したのになんで...｣ 身を寄せてくる全裸の白澄の股間はしっかりと硬さをもっている。ほんの数分前、達した所なのに。 ｢ほら、後ろから突いてやるから、自分で乳首摘んでろよ。ちんこは触るなよ｣ くるりと向きを変えられ、ガラスに押し付けられた。 直後に後ろから尻を押し開かれ、額をガラスにつけて眉を寄せた。 ガラス越しに見える、乱れたシーツと投げ捨てられた使用済みのコンドーム。 ｢ちょ、ご、ゴムしろって、あ、あぁっ｣ ｢風呂場にゴムなんて持ってくるわけねぇだろ。大丈夫だって...出したあと綺麗に洗ってやるから｣ 傲慢な言い方に腹が立ち、後ろ手に白澄の腰を叩いてやったが、その手を掴まれて胸元に導かれた。 ｢ほら、乳首、自分で気持ちよくしろよ。これと俺のちんこでイくの好きだろ？｣ 好きな訳では無い。前を触らずにイくのは少し怖いからだ。それでも白澄の望む通りにするのは、また抱いて欲しいから。 セックスが好きな春を気に入っていることを、知っているからだ。 串に残った焼き鳥に食いつき、咀嚼しながらため息をついた。 平日だと言うのに昨夜は深夜まで及んだ行為のおかげで、一日体がだるく辛かった。 ｢...春ぅ...｣ ｢ん？｣ 人気の焼き鳥屋の店内は賑やかで、今日も満席だ。 食欲はなかったが、これなら食べられると仕事終わりに来たのだが、向かいに座る友人は不快そうな表情をしていた。 ｢焼き鳥屋でそういう色っぽいフェロモン出すのやめてくれよ｣ ｢...出してない｣ ｢出てるから。...昨日ヤりましたって丸わかり｣ ｢いーじゃん。知直しかわかんないよ、そんなの｣ ジョッキのビールを飲み干して通りがかりの店員を呼び止めた。 ｢ペース早いぞ。次で終わりにしておけよ。酔っ払いの介抱とかヤダからな｣ ｢.....知直しか俺の世話する人いないのに？｣ ｢は？何キモイこと...。何だよ、白澄がインポにでもなった？｣ 下半身に節操のない白澄に限って有り得ない。 ｢あ〜、そうだよね。どうせならインポになったら誰も寄りつかないのかも｣ ｢はは、歩く猥褻物みたいなあいつがなるわけねぇけどな｣ ｢うん。昨日も凄かったよ...。ベッドで二回して風呂場でも、ムゴ｣ ｢さすがにエグいからやめてくれよ。知っちゃいるけど詳細は知りたくねぇ｣ 口を塞いできた宇喜多知直（ともなお）は大学で出来た唯一の友達だ。 就職をして社会人となった今でも交流があるのは、白澄以外には彼しかいない。 ｢お前ってさ、白澄の事以外で悩む事とかあんの？｣ ｢ない｣ ｢...ですよね...｣ ない訳では無い。程々に忙しい仕事である程度悩んだりもする。大体は執拗に食事やプライベートの約束を取り付けようとする輩をどう受け流すか、という内容だが、そんなものは白澄と比較してしまえば取るに足らない事象でしかない。 ｢で？今度は何だ。また孕ませたとかじゃないだろうな｣ 大学卒業前に、一度そんな騒ぎがあった。 白澄のセフレの一人が妊娠したという話が浮上したのだ。結局は女性側の勘違いで終わったが、春の中には色濃く当時の感情が刻み込まれている。 ｢違うよ。...白澄、ちゃんとゴムつけてるもん｣ ｢見てもしないのによく信じられるよな｣ ｢.....嘘は言わないからね｣ 強引で反論すら聞かないが、白澄は春に嘘は言わない。だからこそ、彼の言葉は春の胸を重くするのだが。 ｢は〜、やめやめ。労働の後の会話じゃねぇわ｣ ｢始めたの知直なのに｣ ｢それよりさ、今度大学の時の面子で飲もうかって話してんだ｣ ｢行かない｣ ｢...誘う前に断るなよ｣ 新しい串を手にした春は、顔を逸らした。 視線の先にいた二人組の女性達が、慌てて顔を伏せた。 これが白澄なら、すかさず自分のグラスを持って話しかけに行くのだろう。 女性に興味のない春からしてみれば、よく分からない。もう長年白澄以外に気持ちが向いていないせいで、対象であるはずの男にも目がいかない。 何故こんなにも好きなのだろう。自分でもよく分からない。 (執着...なのかな) 白澄が自分に対して抱いている感情も知らない。 知りたいと思い始めた頃には、もう聞けない状況に陥っていた。 最初からこうだ。寝てみたいとわからないからと下衆な持論を掲げて、彼は手当たり次第に寄り付く女達を抱く。 都合のいい相手の中に、春も入っている。ただ、それだけの事。分かりやすいだけに、何一つ問い質すことは出来ない。 ｢...って、おい！聞けよ、春｣ ｢聞いてなかった｣ ｢.....お前、本当に俺には遠慮って言うか、気遣いとかないよな｣ 大学のカフェテラス。大勢の学生の前で、春と寝たと白澄が宣言した時、笑わなかったのは知直だけだった。 あの時から、本音をさらけ出せるのは彼の前だけだ。｢ふふ、本当に。知直にだけはしないよ。必要ないでしょ？｣ 自分の中の全てを見せている訳では無いが、彼といると楽だ。 ｢...小悪魔｣ ｢あ、ごめん。知直とセックスは出来ないなぁ｣ ｢やめろっての｣ 額を小突かれて笑うと、知直も微笑んだ。 勤め先の入るビルの近くには少し大きめの公園がある。ビル街に無理やり詰め込まれたその場所は、天気がいい日にはサラリーマン達がランチタイムを過ごすにはうってつけだ。 ベンチも数多く並べられているが、場所を確保するのに困る程多い時もあったが、今にも雨が降り出しそうな曇天の中でここに来る者はいない。 春が腰掛けたベンチから視界に入る範囲では人影はなかった。 時折強く吹き付ける風も少し冷たい。 季節の変わり目は雨が多いものだ。秋から冬へと移ろう中の曇天は肌寒かった。 膝に乗せていたコンビニの袋の中からサンドイッチを取り出して齧り、携帯を手にした。 ロックを解除したと同時に着信が入り、そのタイミングに驚きつつも相手が白澄だった事で思わず口元が緩んだ。 ｢はい｣ 《今夜だぞ。飲み会》 前置きも何も無く投げられた言葉に、意味がわからず返事が出来なかった。 《...おい、春》 ｢聞いてるよ。けど、なんの飲み会？｣ 《知直から聞いてんじゃねぇのかよ。大学の面子で飲むって》 数日前に焼き鳥屋で聞かされたことを思い出したが、帰り際に行かないからと念押しをしたはずだ。 知直に聞いたのだろうかと思ったが、春がどう返事をするかは白澄も分かっているはずだ。 ｢俺は行かない｣ 《迎えに行ってやるから、仕事終わったら駅前にいろよ》 ｢...白澄、人の話聞いてよ｣ 《春。迎えに行く》 強い風が木々を揺らし、携帯から聞こえる彼の声が攫われてしまいそうだ。 ｢.....わかった｣ 小さな声で返事をしたが、満足したのか通話は切られた。 行きたくない気持ちは嘘じゃない。けれど、彼に会えるのは嬉しい。 (...迎えに来てくれるんだ...) 何一つ特別な関係ではないけれど、彼が自分の為にしてくれる事は嬉しい。 些細な優しさが熱く胸を満たすから、いつまで経っても離れられない。 温かい缶コーヒーを飲んだ春のため息は、冷たい風に流されて飛ばされて行った。 夕方の駅前は仕事を終えた人達で混雑している。 もう少し早く会社を出る予定だったが、帰り際にまた引っ掛かってしまい遅れてしまった。 相手は春でも名前を聞いた事のある社内では有名な男で、同じ部署の女性社員達が頻繁に彼の話題で盛り上がっていた。 誘われるのは二度目だったが、前回と同じく適当に笑って誤魔化して逃げてきた。 知直に言わせると、笑顔を見せずに断らないからまた誘われる。春は断り方が下手らしい。だが、学生の頃ならいざ知らず、同じ会社の社員相手にそれは出来なくて当たり前だろう。 (白澄...あ、いた！) 行き来する人達の中、頭一つ出る白澄は探しやすい。仕事帰りだとは思えないスタイリッシュなスーツ姿は、すれ違う人達の目を惹くのだ。 ｢きよ...｣ 小走りで近寄り声を掛けようとしたが、白澄が笑顔を浮かべているのに気がついた。 体格のいい彼の影になっていて気が付かなかったが、ワインカラーのワンピースを着ている女性と話している。 ｢あ、来たか、春｣ ｢...お、遅くなってごめん｣ ｢わー！大滝くん、久し振りだね。分かるかなぁ、私の事｣ 優しい笑顔を向けられ、春もにっこりと笑った。 ｢分かるよ。田坂さんだよね｣ 春よりも華奢で小さな彼女は、何故か口を手で押さえてじっと見上げている。 ｢...え？俺、名前間違えてないよね？田坂ゆりさんでしょ？｣ 不安になり白澄を見ると、彼は田坂の肩を抱いて笑い出した。 ｢ほら、言っただろ？｣ ｢あ、ごめんね！あんまり話したこと無かったし、私の名前なんか覚えてないと思ってたの｣ 他人の名前や顔を記憶するのは確かに苦手だが、彼女の事は印象に残っていた。 ｢田坂みたいに男を立てるタイプは忘れられないって｣ ｢ちょ、白澄くん、やめてよ｣ ｢本当の事だろ。嫁にするなら田坂だなってよく話してたぜ？｣ ｢もう、それはいいから。大滝くん、行こう。予約してくれてるお店少し歩くんだって｣ 前を向いて歩き出した彼女の頬は赤い。白澄はその彼女の肩を抱いたまま身を寄せて歩き出した。 (...だから、来たくなかったのに...) 辿り着いた店は煉瓦造りの洒落た店で、ワインとパスタ、店内の窯で焼くピザが美味いと有名な店だった。 照明が控えめな店内の一番奥にある半個室になったスペースで、十五人程が席に着いていた。 彼等は入ってきた白澄を見るなり、笑顔で迎えていた。奥に座れと言われた白澄は、何故か先に田坂を席に座らせて当たり前の様に隣に腰を下ろしている。 春は二人とは離れて手前の列の端の席に座った。この場所ならいつでも抜けて帰ることが出来る。 黙って帰ったとしても、きっと誰も気が付かないだろう。 ｢なぁ、アレ何｣ 肩に重みを感じて振り向くと、息を切らした知直がいた。 ｢あ、お疲れ。走って来たの？｣ ｢お前らが歩いてるのが見えたから。隣の女...誰だっけ｣ 隣に座った知直は、他のメンバー達に声をかけられていた。だが、面倒くさそうに手を上げて返事をするだけだ。 ｢田坂さんだよ。それより席代わる。みんなお前と話したいだろ｣ ｢いいって。...白澄は次はアレ狙い？｣ 田坂の肩から腕を離してはいたが、どう見ても距離が近い。 広々としたスペースで大きなテーブルについているのに、白澄と田坂の肩は触れている。 ｢...知らない｣ ｢ま、いいけど。黙って抜けるなよ？帰りたい時は俺に言えよな｣ ｢もう帰りたい｣ ｢待て待て、せめて三十分は飲んで食えよ｣ 運ばれてきたドリンクをそれぞれが手にしたあと、顔も名前も分からない男が、メンバーの中の一人が結婚するから前祝いだと言った。 全員が口々におめでとうと声をかけていたが、春は手にしたグラスのシャンパンの泡がはじける様をぼんやりと眺めていた。 グラスの左奥には、楽しそうに笑う白澄が見える。 ｢幸せを願って、カンパーイ！｣ 声がかけられた直後、グラスの中身を飲み干して鞄を手にした。だが、その手は知直に止められてしまった。 ｢春。ここに居るのは白澄だけじゃねぇだろ？俺がここにいるから、もう少し付き合えって｣ ならせめて、席を替わって欲しい。春の左隣には見知らぬ男が座っているし、右側に座る知直が一番端の席なのだ。 ｢...ね、席｣ ｢このままでいいって｣ 知直の方に向いていた春に、顎で向こうをむけと指示されてしまった。 真っ直ぐ前に向けば、左斜め前にいる白澄が視界に入ってしまう。 やはりここは帰ってしまおうかと考えていると、左隣の男から声をかけられた。 ｢な、大滝だろ？｣ ｢...うん｣ ｢卒業してから集まりに参加するの初めてだよな？もう四年くらい会ってないのに、お前変わらないんだな｣ ｢.....そ、そうかな｣ 名前も何も全く思い出せないが、彼は春の空になったグラスにシャンパンを注いでくれた。 ｢あ、悪い。ワインのが良かったか？｣ ｢いや、...これでいい。ありがとう｣ 注いでもらったからには、と、シャンパンを一口飲んでグラスを置くと、じっと見つめられていることに気がついた。 ｢...あ、の｣ ｢あっ、悪い！いやぁ、あんまりにも変わってないからさ。昔と変わらず美人だよな｣ ｢.....は？｣ どうリアクションすればいいのか分からず呆けると、右隣から知直が押してきた。 ｢だろ？肌なんかツルツルなんだぜ、こいつ。あんまりにも綺麗だから何かスキンケアでもしてるのかと思ったらさ、何にもしてないんだと｣ ｢え？マジで？真っ白で透明感ありまくりなのにな｣ ｢朝に水で洗うだけだとよ。元の作りが違うんだろうなぁ｣ 人を挟んで盛り上がるのはやめて欲しい。間に挟まれた春はどうすればいいのかわからない。 ｢でもこいつ、昔からすげぇ面倒くさがりでさ｣ ｢ちょ、知直っ｣ ｢洗濯して室内に干した服、一ヶ月とか干しっぱなしなんだぜ｣ ｢えぇ？マジでか！｣ 急に何の話だと思うと同時に、プライベートな暴露話をされて困惑した。 知直の口を塞いで止めてやろうとしたが、先回りした彼の手に掴まれて遮られた。 ｢なぁ、白澄！春んちはいつ行っても散らかってるよな｣ 遠くの席に座っている白澄の名前を呼んだ知直に驚いた。 一瞬その場の喋り声が消えて、店内に流れるジャズだけがテーブルの上を流れていく。 ｢...先月、乾燥機付きの洗濯機に買い換えたから、最近は干しっぱなしはしてねぇけどな｣ 白澄の低い声が響いた直後に、漂う空気が緊張を増したのがわかった。 これだから嫌だったのに。そう叫びたくなったが、春がこの場を逃げようとする前に、数人の女性たちから声が上がった。 ｢意外じゃない？大滝くんって、家事とか自分でなんでも出来るものだと思ってた！｣ ｢もしかして、自炊とかも苦手なの？｣ 離れた席から問いかけられ、思わず素直にうんと頷くと、二人の女性達が席を立ち春の側に移動してきた。 ｢え、なに、｣ ｢ごめんね、知直から今日は大滝くんが来るって聞いて、楽しみにしてたの｣ ｢学生の頃から話してみたかったんだけど、あの時ってほら...何だか話しかけにくい雰囲気とかあったから｣ 彼女達が言いたいことは分かる。 白澄が友達の前で春との関係を話したあの時以降、春は四年間の大学生活の間はほぼ白澄と知直としか会話をしなかった。 ｢それはあの、俺も...｣ ｢違うの、話しにくくさせたのは私達にも責任があるから。だから...あの、仲直りって言うのも烏滸がましいんだけど、とにかく謝りたいねって二人で話してたんだ｣ 緊張しているのか、二人とも頬を赤くしながら必死に話して聞かせてくれた。 どう返事をしようと逡巡した春の肩に、知直の手が乗せられた。 ｢あの、それは...俺も話しかけられても無視したりしてたから。だから...ごめんね｣ こんな言葉を出せるようになったのは、社会に出たからだ。入社して働くと言う事は、大変な反面勉強できることも多い。 ｢良かったな！二人ともさ、俺に会うといっつも春は元気してるのかって聞いてきてたんだぜ｣ ｢やだ、知直ってば、言わないでよ｣ ｢あ、あのあの、大滝くん、また私達とご飯してくれる？勿論知直や白澄も一緒に！｣ ｢そして出来れば、その美貌の秘訣を教えて欲しいですっ｣ 二人は同時に春の両手を握り締めてきた。予想外の事態に思わず知直を見ると、嬉しそうに笑っている。 何度も一緒に飲みに行こうと誘ってきたのは、こういう事だったのだろう。 ｢なんだよ、そこだけなに青春してるんだよ〜｣ ｢私も大滝くんと話したいから入れてよ！｣ 何故か群がってきた女性達にやたら握手をされて困ってしまったが、隣に座る知直は笑いながら何度も春の肩を叩いていた。