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2.Beyond the world

 店の外観と同様、店内も白木が使われ、清潔でとても居心地がいい。  さて、店に入ったもののどこに何があるかわからなかった。それにまだ買うものも漠然としている。  肇はスマホを出して、恋人の普段着を眺めた。 「あ、あの、お客様……」  さっきの長身の店員がひそめた声で話しかけてきた。 「店内の撮影の方は、ご遠慮願えませんか?」  肇は首を傾げた。 「は? 写真を確認しているだけですけど」 「うわぁ! も、もうしわけありません!」  店員はよく日に焼けた顔を赤くして、いきおいよく頭を下げた。  声をかけられたのを幸いに、肇はスマホを店員に見せた。 「この人にシャツを贈りたいんですけど、お勧めはありますか?」  一枚では何なので、数枚恋人の写真を見せた。  写真を見た店員は、白い歯を見せてニコッと笑った。 「うわぁ、かわいい方ですねー!」  肇は顔がにやけそうになるのをぐっと我慢した。童顔の恋人に「かわいい」は禁句なのだが、ここまで手放しでほめられると、うれしくなってしまう。 「無地がお好きなようですから、ここはチェックで変化をつけるのはどうですか? お手持ちのTシャツの上にはおるとおしゃれですよー」  案内されたコーナーにチェックのシャツが並んでいた。 「この柄はトーンオントーンチェックと言ってご覧のとおり同系色のグラデーションなので、無地好きな方には受け入れられやすいと思います」  肇はその中で緑と青に目が引き寄せられた。緑と青で心が揺れる。  好きなのは緑だが、秋央には青の方が似合いそうだ。 「拝見したお写真からすると青の方がお好みのようですね。しかも似合ってらっしゃる」  この独特のイントネーションで話す店員は、流石にプロだなと思った。恋人は青が映える色白なのだ。 「今までと違う物を着てもらうには、まず好きな色を贈るのが一番かと思います」  店員の言葉に肇は決断した。 「じゃ、青をください。身長が178ですけど」 「うちのシャツならサイズはLでいけますね。スマートな方ですし」  きちんとたたまれたものを棚から出してくれる。  肇は緑のシャツをしげしげと見続けた。  店員が顔をのぞき込んできた。 「お顔にあててみますかぁ?」  肇は迷わず大きく頷いた。  当ててみるとややエメラルドグリーンがかった色違いのシャツは、肇に似合った。  ほしい。  しかし、言葉が漏れてしまった。 「おそろいじゃ一緒に着て、歩いてくれないよな」  ひとり言が聞こえたのだろうか、店員が「お客様」とレジのあるカウンターを気にしながら、声を落とした。 「それなら、お客様は腰巻きスタイルにするという手がありますよ」 「腰巻きって、袖を前で結ぶ、あれですか?」 「はいっ、雰囲気がぐっと変わるので、おそろい感が薄れると思います」  肇は青のシャツを着た恋人と、緑を腰巻きにした自分の姿を思い浮かべた。  それだけでわくわくする。 「じゃあ、緑もください。サイズはLで大丈夫かな」 「胸囲を測りましょうか」  フィッティングルームに荷物を置き、店員がメジャーで素早く胸回りを測ってくれた。  感心したように店員が言った。 「鍛えてるんですか? 結構胸囲がありますね。でもうちのならLでいけそうです」 「じゃあ、Lで」  背の高い店員はにっこりとした。 「ありがとうございます。どうぞこちらへ」  カウンター前で、肇は頼んだ。 「青はプレゼント用に包んでもらえますか」 「袋でしたら無料でお包みできます。有料でお箱もご用意しております」  肇は迷わず答えた。 「箱でお願いします」  背の高い店員が包んでいる間、レジにいた赤っぽいウェーブのかかった髪の男が電卓を叩く。 「シャツが二枚で、七千九百八十円、お箱代が五百円、消費税をいただきますので、九千三百二十八円になります」 「クレジットカードでお願いします」 「かしこまりました」  会計中に腕時計を見た。そろそろ新幹線の時刻を気にしなくてはいけない。 「お待たせしました!」  背の高い店員がカウンターを出てショップの袋を渡してくれた。水色の円に「Beyond the world」と書かれている。  店の名前を初めて知った。  背の高い店員は店の外まで見送ってくれた。そしてサムズアップしてウィンクをすると、いきおいよく頭を下げた。 「ありがとうございましたー」  肇は温かい気持ちで頬が緩むのが止められなかった。

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