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第29話

 何度かそうして体を重ね、ようやく少し落ち着き、俺は貴一さんの太ももを枕に寝転がっていた。  貴一さんはそんな俺の伸びた前髪を撫でて、耳にかけてくれる。 「なんかさ」 「うん?」 「貴一さん割と冷静じゃなかった?」  ヒートにあてられたアルファはそれこそ獣のようになると思っていた俺は、完全に理性を失わない貴一さんがちょっと憎らしかった。  俺達は運命の番じゃないとは分かっていても、俺の香りじゃ貴一さんはそんなに興奮しないのかもしれない。  そう考えると落ち込んだ。 「だって俺、抑制剤飲んだもん」 「いつ?」 「昨日シャワー浴びた後、瑞樹から少しいい香りがしていたからさ。そろそろかなって飲んでおいた」 「なら、起こしてくれれば良かったのに。そしたら俺も抑制剤飲んで、今頃ドイツ行きの飛行機の中だったのに」  フライト時間はとっくに過ぎていた。  明日の便にでも振替えることは可能だろうか。  そんなことを考えている俺を貴一さんが抱きしめる。 「抑制剤だって副作用あるんだから、飲まないで済むならその方がいいんだよ。これからは俺がいるんだし。それにしても瑞樹のヒートを舐めてたな。あんまりいい匂いで抑制剤飲んでても、全然収まらない。こんなの始めてだ」  恥ずかしそうに言う貴一さんの屹立はすっかり勃っていた。俺がそれをするりと撫でると、震え、先端が濡れた。  「これ、またちょうだい」  そう言うと、ゆっくりと貴一さんの顔が降りてきて、俺達の唇が重なった。    結果的に俺達は新婚旅行には行かなかった。  一週間丸まるホテルに籠って、ほとんどをベッドの上で過ごした。  コンドームを全部使いきると、貴一さんは恥ずかし気もなくそれをフロントから届けさせた。  ホテルを出たとき、俺の足腰はふらふらだった。 「無理させちゃったな。ごめん」  そう言う貴一さんに俺は首を振った。 「俺もしてほしかったし」  ホテル前からタクシーに乗り、新居のマンションを目指した。 「新婚旅行には行けなかったけど、ある意味一番新婚らしい過ごし方ができて、俺は満足してる」  そう言う貴一さんに俺は吹き出すと、その広い肩に頭を預けた。

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