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第30話
俺も貴一さんも家族以外の誰かと暮らすのは初めてで、心配なことも多かったけれど、予想以上に上手くいっていた。
貴一さんもそう感じているらしく「俺、ちょっと潔癖なとこあって、自分のテリトリーに他人が入るのが苦手だったんだけど、瑞樹なら大丈夫。むしろもっと近くに居て欲しい」と恥ずかしそうに言っていた。
俺は仕事を始めようかとも考えた。
自宅でできるデータ入力の仕事を見つけ、収入的には多くないが、これならば発情期を気にせずに働けると思った。
しかし貴一さんが俺が働くなら家政婦を雇うと言い始めたので、当分専業主婦でいることにした。
貴一さんの仕事は忙しく、遅く帰ってくる日も多かったが、週一日は休日として俺と過ごしてくれた。
今週は水曜日が貴一さんの休日だった。
昼過ぎまで二人で寝坊して、午後から輸入家具を取り扱っているショップに、寝室に置くランプを探しに行った。
高級そうな店内に尻込みしながらも、貴一さんに促されて入る。
入口付近に置いてある座り心地の良さそうなソファの値段を見ると8万だった。
安くはないが、思っていたより手が届きそうと、俺は試しに腰掛けてみた。
包み込むような座り心地にほうっと息を吐く。
「気に入った?」
貴一さんが隣に座り、俺の手を握った。
「うん。でも今家にあるのも素敵だし、まだまだ使えるし。でもこれ8万って意外と安いんだね。驚いちゃった」
俺の言葉を聞いて、貴一さんがくすりと笑う。
「瑞樹。もう一度値札を見て」
そう言われて改めて見ると80万だった。
俺は息を吐くと肩を落とした。
「ごめん。桁が違った。そりゃそうだよね。このクオリティだもん」
「瑞樹が気に入ったなら買おうよ。このソファ」
俺は貴一さんの言葉にぶんぶんと首を振った。
「ねえ、やっぱり違うお店行かない?トリキならこの3分の1でお値段以上の物買えるよ?」
「うーん。この店一周したらな」
俺は仕方なく頷いた。
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