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第46話

 貴一さんが俺を逞しい両腕で抱き、うなじに顔を寄せる。  首輪があっという間に外され、うなじに残る噛み痕に口づけられた。  ぞくりと俺の体が震える。 「瑞樹。本当にありがとう。頑張って、俺達の子を産んでくれて」  「うん」  貴一さんが体を離し、俺達は間近で瞳をあわせた。  唇を重ねながら、目を閉じる。  それからさっき見つめ合っていた時、「愛している」と言ってくれるかもしれないと思った自分を一瞬恥じた。  退院後、まずおこなったのはベビーシッターを探すことだった。  俺は一人で面倒を見れると言ったが、これからまた始まる俺の発情期の時に任せられる相手は絶対に必要だからと、貴一さんは譲らなかった。  最初に看護婦の免許を持っている20代のオメガの女の子を雇ったが、貴一さんが子育てに対する考え方が違うと勝手に解雇してしまった。  それから50代のベータの女性を雇い、今は週二日来てもらっている。  結果的にベビーシッターを雇ったのは正解だった。    双子の子育ては本当に大変だった。  特に樹は夜泣きが酷く、せっかく寝ていた喜美まで起きてしまい、夜中に大合唱なんてことはざらだった。  夜泣き中に帰宅した貴一さんに「また樹泣いているの?」と問われただけで、俺は責められたように感じた。 「どうせ夜泣きも止められない、駄目な母親ですよ」と怒鳴り返したこともあった。 「今のは俺が悪かった。ごめん。樹の抱っこは俺がしているから、瑞樹は喜美と一緒に少し寝な」  自分も仕事で疲れているのに、貴一さんは八つ当たりをした俺に文句も言わなかった。  そんな貴一さんにお礼を言う気力すら、俺にはもう残っていなかった。    ベビーシッターの望月さんに来てもらう時間を長くして、回数を増やそうと貴一さんに提案された時、俺は素直に頷けなかった。  俺が母親失格だからだ。人の手を借りなきゃ、自分の子供も満足に育てられない。  そんな思いが頭の中を駆け巡り、涙を堪え、押し黙った。 「瑞樹」  貴一さんがそんな俺の手を握った。 「瑞樹は良くやってくれているよ。瑞樹が子育てをちゃんとやってくれているから、俺も安心して働きに出れるんだ。本当ならもう少し俺も樹と喜美と一緒に居る時間を増やしたいんだけど、当分仕事が忙しくてそんなに早く帰れそうにない。だからその間、俺の代わりに望月さんに多めに来てもらおう。な?」 「俺がもっと一人でちゃんとできれば」 「初めての育児なのに、瑞樹は立派にやってると思うよ」 「やってない」  そう言うと、我慢していた涙が頬を伝った。

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