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第45話

 最近ハマっている蒸しパンを食べていると、下半身に違和感を覚えた。  俯くと、着ていたズボンがぐしょり濡れていた。  俺は息をのむと、すぐ病院に電話をかけた。  初産だったのに、双子はあっさり産まれた。  個室のベッドの上で、壁際に置かれた二つのベビーベッドを見つめ、俺は微笑んだ。  流石に疲れて瞼が落ちそうになってきた時、廊下を走る足音が聞こえ、扉が開く。 「瑞樹っ」  俺は口元に人差し指を当てた。 「今、寝たばっかりだから」  ベビーベッドを指さす。  貴一さんは神妙な顔で頷くと、足音をたてないようにこちらに近づいて、俺の手を握った。 「ごめんな。今日はずっと会議で、スマホの電源落としてたんだ。出産に立ち会えなくて本当にごめん」 「予定日より一週間も早く産まれるなんてね。気にしないで。破水したと思ったら、あっという間に産まれて、そんなに大変な思いしなかったし」 「そうか。安産で良かった。でも次回は絶対に立ち会うって約束する」  貴一さんはそう誓い、俺の額に口づけると、ベビーベッドの方に歩いていった。 「わあ、可愛いな。女の子の方は鼻が瑞樹に似てる」  ピンク色のおくるみをきた赤ん坊の鼻に貴一さんがそっと触れる。 「そう?男の子は瞳も髪も真っ黒で、目を開けると貴一さんのミニチュアみたいだよ」 「そうなのか」  貴一さんは微笑みながら、双子の頬を代わりばんこに指で撫でた。  俺はアルファの男の子とオメガの女の子を出産した。無事に産まれてきて何より嬉しいが、自分がオメガで苦労したせいで、どうしても女の子に対しては将来を今から心配してしまう。 「名前決めた?」  俺が聞くと、貴一さんが頷いた。 「女の子は喜ぶに美しいで喜美(キミ)。男の子は瑞樹から一文字貰って樹(イツキ)」  文字を書いた手帳を見せながら貴一さんが言う。  俺はにっこり笑って「いい名前」と呟いた。 「なあ、本当に二人とも俺が名付けちゃって良かったのか?」 「うん。俺、そういうセンスないし」  その言葉に貴一さんはくすりと笑うと、俺のベッドに腰かけた。 「どこか痛いとこないか?」  問われ、俺は大丈夫と首を振った。 「じゃあ、抱きしめてもいいか?」  俺は顔を赤くすると一度、頷いた。

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