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第57話
けれど、最初の嘔吐感もなく喉の奥まで迎え入れることができるのは、それだけ繰り返しているからだ。
先端の苦みを感じる水滴も躊躇なく飲み込める。
「 っ」
紙を捲る音はいまだに止まない。
はっきりと欲望を表していると言うのに、部長の動きに変化はなかった。
こちらを見ない目が悔しくて……切なくて……
コンドームを開けて起立に宛がう。
初めての時には失敗したソレも、もう躊躇なくできるようになってしまった。
「っ ふ、ぅ ン 、んんっ」
部長のソレに跨り、腰を下ろす動作に眉間に皺が寄る。
勝手に勃たせて、
勝手に入れる。
こんなのはただの自慰の延長で、自分がする必要も自分でする必要もない。
情けなくて、
惨めで、
見降ろした部長の視線が、小林先輩のような熱を持ってこちらを見ないのはわかりきっているのに、望んでしまうのはどうしてなのか。
怖いところもあるけれど、乱暴な所作の中にもオレを気遣ってくれているのがわかる小林先輩。
先輩
……先輩
小林先輩ならきっと、セックスをしようとしている時に家族に電話をしていたり、仕事だから勝手にやっているように なんてことは、絶対言わない。
尊重してくれる。
優しくしてくれる。
いろいろな話合いをする。
何より、オレを好きになってくれている。
部長がオレに好意を持っているのかどうか、わからない。
オレが勝手に抱かれに来ているだけだから……
何らかの想いがあるからこうやって抱いてくれるのだと思うのだけれど……
この虚しさは、きっとずっと、埋まらない。
ぱち ぱち
頬を軽く叩かれて意識が浮上した。
物を考えすぎて、ぼんやりとしてしまっていたのだと、部長の険しい表情を見て気づいた。
部長のソレを宛がったままのアナが引くついて、ぷちゅ と小さな水音が響く。
「他所事とは余裕だな」
「 ち、が 」
いつの間にかテーブルに戻されている書類と部長の顔を交互に見やり、
「邪魔を したんですね、申し訳ありません 」
「 世話係のことでも考えていたのか?」
半分だけだけれど、言い当てられて頬に赤みが差すのがわかる。
咄嗟に頬を隠そうと手を上げたが、それは部長に掴まれて叶わなかった。
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