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第59話
会社の資料室が清潔に、かつ見やすくなったと噂に聞いた。
「ちょっと休憩してきます」
以前に奮闘していた小林先輩の姿を思い出し、休憩時間にコーヒーを買って資料室に向かってみた。
スチール棚と冊子の並ぶそこは電気が灯っていても薄暗い感が拭えない。
奥までは棚がいっぱいで見渡せないので、入り口の辺りから声をかけた。
「お疲れ様です!先輩?まだいたりします?」
「 おー、いるぞ」
総務の方に先に顔を出すか、こちらを覗くか迷ったけれど、人気のないこちらを選んで正解だったようだ。
奥からのそのそとやってくる小林先輩は、草臥れたような顔はしているが元気そうだった。
「資料室の噂聞いたので。休憩がてらコーヒーとかどうですか?」
手の中の小さな缶を振って見せると、小林先輩は疲れていたのか「はぁ~」と長い溜息を吐いてオレを手招く。
小林先輩に近づきながら、左右の棚を見てみれば、それぞれがファイリングし直されて、きちんとファイル名も記載されている。
「頑張りましたね」
「だっろー?しかも一人だし、総務の方の仕事と並行してだぜ」
ぎりぎりと歯を食いしばられると、傍で一緒に休憩しようと言う気がどこかに飛んでいきそうな気がする。
気まずい雰囲気を変えたくて、小林先輩の手の中に冷たいコーヒーを押し付けた。
「休憩しましょう!」
「 しょうが、ねぇなぁ」
多分まだ手つかずの資料が入っているであろう段ボールの上にどっかりと腰を下ろし、美味そうにコーヒーを飲み始める。
「まだまだ未整理分もあるんですか?全部入ります?」
「うん、でも保管期日が過ぎた日誌やらは処分対象だから、そこを捨てて……まぁなんとか」
ため息交じりな雰囲気は、まだまだ処理しきれない書類があるのだろう。
「お前は?最近どんな?」
「最近 忙しい、です?」
ふはっと吹き出され、飛んだ雫を慌てて拭う。
「お前の感想、いつもそんな感じなんだな!あー……まぁ言えないことも多いか。出張が結構あるって聞くけど?」
「そう、ですね。 よく、行きます」
こちらを見て話しを促す小林先輩に、出張に行く度に部長に抱かれ続けている体を見られたくなくて、膝を抱え込んで小さくなる。
これで何が隠せると言う訳ではないのだけれど、まっすぐに見つめられて酷く恥ずかしい気がした。
「えー?佐伯部長とだろ?せっかく遠出しても楽しめないな」
「 部屋は 別ですから」
ちゃぽん と缶に残ったコーヒーが音を立てる。
部屋は別だけれども……
夜になる度、部長の部屋の戸を叩いていると、告げれば小林先輩はどう言う反応をするかと、昏い疑問が頭を擡げる。
「なぁ、ちょっと、出かけないか?」
「え?夕飯ですか?」
「違うって!ちょっと近場で。観光できるとこ」
にこにこと笑う顔は、先程擡げた昏い考えとは真逆で……
引き戻された明るい世界に、ぱちぱちと目をしばたたかせる。
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